ブロックチェーンは革命なのか?

ドン+アレックス・タプスコット著「ブロックチェーン・レボリューション」を読み返しています。

ビットコインに代表されるブロックチェーンの技術は、インターネット開発以来、それに匹敵する革命と、高い期待が寄せられており、その髄をつかみたく。

P2Pネットワークが支える、あらゆる取引が記録された世界規模の帳簿。「分散型台帳」とも称される技術です。

それは情報のインターネットに対し、「価値とお金」のインターネットであり、信頼のプロトコルであると評します。分散、パブリック、高セキュリティが肝、だそうです。

スマート契約によって、オープンなネットワーク型企業がこれからの主流になります。政府もオープンになり、利益団体の影響力は衰え、より誠実で透明度の高い政治となります。クリエイターが業界の世話にならなくても作品の対価を受け取れます。だそうです。よさげです。

各システムが個別に格納していた台帳データを共有すれば「サプライチェーンやトレーサビリティーなど複数の組織が連携する領域において進化を発揮する」(WIRED Vol.25  P72)。

個人同士で全取引が完結する、仲介するコアのない「脱中心」の世界を突き詰めれば、国家も企業も不要になっていきそうです。

MITメディアラボ伊藤穰一所長がデジタル通貨イニシアティブを形成し、世界の大学や研究機関を結集するとのことですし、世界の大手銀行もコンソーシアムを組むということなので、通貨や金融に関しては動きが広がりそうです。

ブロックチェーンはインターネットでいう1994年ごろの感じで、ここからの発展が見込まれるそうです。

と、伝聞調にしているのは、ぼくにはまだどこまでスゴいのか、ストンと落ちていないからです。とてつもなく大きな可能性を予期させつつ、手触り感に乏しい。ぼくの理解力が乏しいせいですが、技術の芯と、それの描く実像が固まっていないせいもあるでしょう。

94年ごろのネットって、スゴい感がスゴかった。それまでの通信を技術的に覆し、圧倒的なコスト低下をもたらす。1分500円だった国際通信がタダになる。コミュニケーションが爆発し、表現の民主化が進む。全ての情報がデータ化し、マルチデバイスで統合コンテンツが流通する。

それにより、自律分散・民主化が進み、映像・音声表現の創造と発信が進み、アトム=現実空間がビットにも進出し、新ビジネスが生まれる、ぐらいの展望は描けていました。さらに、ビットがアトムにも進出するIoTを知ったのは98年。P2PがM2Mに進むこともほどなく展望できました。

それに比べブロックチェーンの衝撃はまだつかみにくい。その技術応用の一つであるビットコインが送金や新種の貨幣として役立つことはわかりますが、ブロックチェーンが全ジャンルにどう波及・適用されるのかの本質が本書でも抽象レベルにとどまっています。

それはブロックチェーンがP2P、非対称鍵暗号、暗号学的ハッシュ関数、スマート契約などの要素技術の複合体で、ネットに比べて体系がわかりにくいせいもあるのでしょう。

本書はAirbnbもuberも情報の集中による手数料ビジネスであり、ブロックチェーンを使えば各メンバーが組織を飛ばして主体的に運営できるといいます。ホテルやタクシー会社を飛ばすシェアエコ企業を、さらに飛ばす。でもそれはブロックチェーンを使わないとできないのか、が今ひとつ読めない。

本書に登場する「自律エージェント」は、人やロボットを雇いつつ、日々の意思決定をプログラムに委ね、取引条件を自動で実行して支払いを自動化するスマート契約のもとで動くといいます。期待します。ただ、そのためのブロックチェーンの必然性が何なのかを知りたい。

IoTにより、交通の自動化、インフラの管理、農業の効率化などさまざまなイノベーションがもたらされるともいいます。それも期待するところです。ただそれはIoTとP2Pで概ね達成できる気がしていまして、そこにブロックチェーンがどう関わるのかを明らかにしたい。

オープンデータにも言及されます。政府のデータをブロックチェーンに乗せることで、高い利用効率と信頼性が得られるとあります。それには大いに期待するのですが、具体的に何がどうなってそうなるかをぼくが説明できないので、何とか理解したいところです。

ワクワクしつつも、今一つの納得と手触りを得ていないといいますか。
なので。やってみようと思っているんですよ。

本書に登場するエストニアの電子政府。ブロックチェーンを使って、デジタルIDを国民に付与、それにより、納税、銀行システム、交通の利用、学校の成績管理、医療のカルテ情報などを電子化したと。そういう手触り感がほしい。

エストニアではそのブロックチェーン電子政府により、20分あれば会社が設立できるようになったとのこと。その技術を日本で展開しようとしているエルテス社と連携して、ポップテック特区CiPで起業特区ができないか、という相談を始めています。手触ろうかな、と思います。

また、本書では、音楽エコシステムに関し、アーティストが透明かつリアルタイムにマイクロペイメントで報酬を受け取る姿を提示しています。これもポップテック特区CiPで経産省の支援のもと進めているアーティストのID+データベース構築「アーティストコモンズ」でやれないものかな。

ワクワク展望しつつ、可能性を見極めつつ、アクションを起こす。いつものそんなやりかたで、関わってみようと思います。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年2月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。