嫉妬は法廷をも揺るがす !

荘司 雅彦

「本当にあったトンデモ法律トラブル」でも書きましたが、女性の不倫はなかなかバレません。男性とラブホテルに入る写真を突きつけられても堂々と否定する女性のいます。

ある時、離婚して5年くらいたったという明夫さん(仮名)という40歳前後の男性から元妻の不倫事件の依頼を受けました。
明夫さんは、離婚の時には元妻の直美さん(仮名)が不倫をしていたということを知りませんでした。最直になって、直美さんの友人の典子さん(仮名)から直美さんの不倫の事実を知らされ、我慢ができなくなったので慰謝料を請求したいとのことでした。

物証が何もないので不安でしたが、いざとなれば典子さんが証人にもなってくれるという明夫さんの言葉を信じて受任。
直美さんに内容証明を送ったのですが「やっていない」の一点張りでした。

やむなく訴訟を提起したところ、直美さんは弁護士を立てずに本人訴訟で臨んできました。余談ながら、私の経験では、本人訴訟で臨むのは女性の方が圧倒的に多かったです。男性は裁判所に出てくることすら尻込みする臆病な人がたくさんいました。女性の方が男性よりも度胸が据わっているのでしょうね。

訴訟でも直美さんは不貞の事実(不倫)を否認したので、典子さんを証人に立てることにしました。5年以上前のしかも物証のない証人だけが頼りの事件だったので、私は(余計な詮索をされないよう)典子さんとの事前接触を避け、証人も(「同行」ではなく)「呼び出し」で来てもらいました。

私が主尋問で典子さんに尋ねると、典子さんは直美さんの不倫について、相手はもとより、時間帯、回数、その他”微に入り細に入り”証言してくれました。

当然のことですが、単に直美さんが「不倫をしたと言っていた」程度の内容では証拠価値はありません。
お酒の席で嘘を言うこともあるし自慢話(?)やホラをふく可能性もあるからです。これは男性に多い傾向です。
そういう意味では、法廷での典子さんの証言は、具体的な事実に基づいた信憑性が極めて高くて十分満足できるものでした。

さて、直美さんが典子さんに反対尋問をする段になりました。
最初は典子さんの証言を崩そうという努力が見られたのですが、尋問下手な弁護士がよくやるように、かえって典子さんの口から自分に不利な事実が次々と出てくるばかりでした。

やがて尋問が口論になり、「どうしてそんなことをしゃべるの?」「明夫さんがかわいそうだったからよ!」「あなただって不倫してたじゃない!」「そんなことは関係ないわ!」「あなたに証言する資格なんてないわよ!」…裁判長がなだめても口論は収まりませんでした。

当然の結果として直美さんの不倫の事実は証明され、明夫さんの勝訴が確定しました。直美さんが慰謝料を任意に支払わなかったので、給与の差押手続をして一件落着。

私の経験では、不倫相手の男性に裏切られた(男が妻の味方になって不倫をバラされた)女性は数多く知っていますが、同性の友人が法廷で証言したというのは本件だけです。典子さんの証言からすると、直美さんは逢瀬のたびに典子さんに話していたりアリバイを頼んでいたようです。

なぜ、典子さんは、わざわざ法廷に出頭までして親友(?)を裏切ったのでしょう?
思うに、「不倫をしたくせにうまく逃げた」のが許せないという嫉妬心によるものではないでしょうか?

男女を問わず「嫉妬心」ほど恐ろしく攻撃的な感情はありません。たまたま同じ学校の出身だというだけで人気漫画家に嫉妬心を抱いて、ネット上で誹謗中傷を書いた挙句に訴えられた男性もいます。

ともかく、不倫の事実はいかに信頼できる友人にも話さない方が無難だということがお分かりいただけた思います。自慢大会やホラで大口を叩く程度であれば大丈夫でしょうけど。今現在、心当たりのある方は十分注意してくださいね。相談相手の態度をしっかり見極めておきましょう。

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荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年2月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。