大学無償化へ「教育国債」とは無責任

2017年02月20日 06:00

「教育国債」で財政規律は絶望的に…(写真ACより:編集部)

科学技術の研究費充実が先決

先進国最悪の財政状態で、その再建もおぼつかないのに、教育の無償化というきれいごとに向かって与野党が競争して走りだしています。何兆円もの財源をまかなう「教育国債」構想も与党から飛び出し、なんとも無責任な話です。日本経済が停滞から抜け出すには教育の充実が不可欠にしろ、どう充実させるかの肝心の議論が聞かれません。耳障りのいい「教育国債」などという造語を作り出し、国民の眼を欺くべきではありません。

「子どもの貧困」対策としての授業料免除から始まり、話がどんどん膨れ上がりました。民進党は「就学前から大学までの教育を無償化する法案を国会に提出する。財源は5兆円」。維新の会はやはり「幼児期から高等教育まで無償。財源は4・3兆円」。自民党は教育再生実行本部の設置するとかで、「大学・短大の年間授業料は3・1兆円。高校や幼児教育の無償化を含めると、5兆円」だと、気前のいいことです。

狙いはどこにあるのでしょうか。まず憲法改正への流れを作ることですか。安倍首相は施政方針演説で「高等教育を含め、全ての国民に開かれたものでなければならない」と述べ、その心は「高等教育までの無償化を憲法に明記したい」に置いているとの解説が聞かれます。維新の会も同様ですか。「教育無償化」をそんな目的に使うのですかね。

耳障りのいい「教育国債」で欺く?

選挙対策も絡むのでしょう。民進党は「国債発行でなく、消費税を10%にアップ、配偶者控除の廃止」など、実現が難しい財源を挙げているのは、人気取りが目的なのでしょう。自民党では返済がいつになるかも分からない「教育国債」案が浮上しています。国債増発と同じことで、教育費を無償にしてもらった若い世代が将来、払う税金で返済するのです。選挙といえば、夏の都議選を控えてか、小池都知事が「私立高校の授業料免除の所得制限を緩和する」ことを明らかにしています。

政治は無責任すぎます。どのような教育が将来に向け、望ましいかの議論をぜすに、「無償化ないし負担軽減」を政治が叫んでいることおかしいと思う人は多いでしょう。これこそ国民におもねるポピュリズム(大衆迎合)であり、国民は逆にもっと重要な教育論があるはずだと、思っています。

まず、大学に進学しても、勉強もろくにしない学生の授業料も免除するのですか。政治不信を招きます。塾通いなどにおカネかかるため、有名大学の合格者ほど、親は高額所得者です。中学、高校でもそうです。人気取りのための教育無償化は社会的格差を広げるに違いありません。親の所得に応じた措置が必要です。

マルクス経済学の教授職は無能な学者の穴場

国が本気で取り組むべき教育政策な何でしょうか。いくらでもあります。例えば、歴史の遺物となったマルクス経済学の講座の廃止です。いまだに全国の多くの大学に開設されています。担当教授がいれば講座が続き、それも世襲制のように弟子に引き継がられています。「無能な学者でも有名大学に職を得られる穴場」との酷評も聞こえてきます。

教育、研究におカネをつぎ込むとしたら、科学研究費補助金(科研費、年間2300億円)の充実を最優先すべきです。優れた研究テーマ、研究者への助成金です。ノーベル医学生理学賞を受賞した大隅教授は賞金を全額寄付して、若手研究者を支援する基金を創設します。教授は「科研費、とりわけ基礎研究費の絶対額が不足している。2、3倍になれば変わる。短期的な成果を追い求める傾向が強まり、長期的、挑戦的な研究が減っている」と指摘します。

毎年のようにノーベル賞を日本人が受賞しています。将来はどうなるのでしょうか。独創的な研究者を育てないと、ノーベル賞は取れなくなるとの危機感を多くの科学者は抱いています。大隅教授は「人類の知的財産が増せば、人類の未来の可能性が増す」と発言しています。勉強もろくにしない学生の授業料を免除するばかげたことでなく、大隅教授のいうような大きな理念に向けて予算を使うなら、多くの賛同を得られるでしょう。

幼児期からの教育は英語とパソコン

幼児期の教育にも改善点はいくらでもあります。私の知人に工学博士号を持ち、著名な電機メーカーに勤め、米国駐在も長かった方がいます。「1970年代、アップルは米国の全小学校にパソコンを寄付した。この時、パソコンの面白さを知った児童が今、米国のソフト産業の中核として働いてる」というのです。さらに「英語を使えるかどうかでも、将来は決まってくる。幼児期ほど教育効果は大きい。小学校での週1時間の英語教育は、大学での週10時間以上に相当する」といいます。

再び、高等教育に話に戻ります。上記の工学博士は「これからはハード(モノ)でなく、ソフト開発で国の負が決まる。一例を挙げれば、システム工学の充実だ。博士号はソフト関連の部門では極めてとりにくい制度になっている。旧態依然としたハード中心の学科に学生も行きたがる」と、不満をぶつけます。大学改革のためのヒントです。

締めくくりに。学生、生徒の理科離れの危機が叫ばれているのに、理系に進む人の割合が増えていません。民主党政権当時、人気取りに走った事業仕分けで、理科教室の教育予算をばっさりカットしました。その民主党が教育無償化を言い出しています。教育予算に関心を持つなら、現場の実情をもっと知ってからにしたほうがいいですね。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年2月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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