ベーシック・インカムって何?

2017年02月27日 14:20

このごろ「高校無償化」や「子育て支援」など、新しいタイプのバラマキ福祉が出ていますが、高校生や幼児をもつ親だけにばらまくのは不公平です。子育て支援のお金は、こどもではなく親がもらうので、それがこどもに使われるかどうかかはわからない。これは単なる所得再分配で、こどものいない貧乏人は税金を払うだけなので、ますます貧しくなります。

再分配するなら、すべての国民に非裁量的にばらまくべきです。それがベーシック・インカム(BI)で、カナダやスイスなどで提案されています。これは図のように、すべての人に(たとえば)80万円を一律に支給します。年収50万円の人には生活保護の代わりに差額の30万円を支給し、所得が80万円以上の人からは所得税20%を徴収した上でBIを支給します。年収500万円なら、手取りは80万円+(500万円×0.8)=480万円になります。


他方、ミルトン・フリードマンの提唱した負の所得税は、社会保障をやめて税制だけで所得再分配するものです。これは課税最低所得が年400万円だとすると、それを超える所得に(たとえば)20%課税し、それ以下の人からはマイナスの税金を取る、つまり税金を還付するものです。年収500万円なら、手取りは400万円+(100万円×0.8)=480万円です。

つまり負の所得税とBIは思想的にはまったく違いますが、算術的には同じなのです。一律に給付するBIのほうが税務は単純化できますが、カナダの一部で行なわれた実験では「働かなくても金がもらえる」というBIのイメージが労働倫理に悪影響を及ぼすので、負の所得税のような形で労働所得を補助することが現実的でしょう。日本で議論されている給付つき税額控除は(言葉はまずいが)そういう発想です。

今の社会保障の一部を置き換えることもできます。今の老齢基礎年金と生活保護と子ども手当を廃止してBIに切り替えると、年間1人84万円(こども36万円)。これは標準世帯では204万円で、今の支給水準とほぼ同じです。社会保障をすべて所得税(および負の所得税)に置き換えると、所得税率は40%以上になりますが、今の社会保障でも2020年代には国民負担率は50%を超えるのでほとんど同じです。

所得税の欠点は、捕捉率が低く資産に課税できないことです。特に高齢者の資産は現役世代よりはるかに多いので、所得税に一元化するのは不公平です。資産課税や消費税と併用する必要があります。医療保険も基礎的な医療だけに縮小し、BIで医療費を支給したほうが効率的です。BIはこどもにも一人ずつ所得を分配するので、上の場合は毎月3万円のこども手当を配るのと同じです。

BIや負の所得税は理想に近い再分配システムですが、フリードマンが提案してから50年以上たっても実現しません。それは既存の社会保障をすべて廃止するので、年金生活者や官僚機構が強く反対するからです。でも日本の社会保障は行き詰まり、あと20年ぐらいで年金基金の積立はなくなって税金と同じになります。それなら最初から、税で分配すればいいのです。よい子のみなさんが大人になるころは、BIを真剣に考えるようになるでしょう。

追記:「高校無償化は現金じゃなくて授業料の免除だ」というコメントが来ましたが、授業料を免除されたら、高校に払うはずの所得が他に使えるので同じことです。「子育て支援」も同じくゼロサムの所得移転なので、それによって成長率が上がることはありません。しいていえば教育の受益者は子で負担者は親なので、親が浪費しないように使途を固定する意味は(初等教育には)ありえます。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)
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