(特別寄稿)トランプ大統領出席 ! 共和党保守派年次総会CPACレポート

渡瀬 裕哉

(編集部より:本稿は、今年からアゴラ研究所のフェローに就任した渡瀬裕哉さんのオリジナル寄稿です。先日、開催された共和党保守派年次総会CPACを現地取材。トランプ政権の支持基盤である保守派の他では読めない話を、ぜひご一読ください。)

日本のメディアでもトランプ大統領がイベントに参加したことから、共和党保守派の年次総会であるConservative Political Action Conference(CPAC)の模様が紹介されたようです。しかし、番組の尺が短いのか・それとも最初から偏向しているのか分かりませんが、その内容は実際にCPACに参加したこともなく参加者と話をしたこともない人たちではまともに解説できていません。そこで、今回はCPACにほぼ毎年参加している筆者がその内容について紹介していきたいと思います。

(CPAC会場の入り口)

Conservative Political Action Conference(CPAC)とは何か?

CPAC(Conservative Political Action Conference)とは共和党系の保守派政治団体らによる年次総会であり、毎年2月末から3月頃にワシントンDCで3~4日間ほどかけて開催されているイベントです。近年では場所はワシントンDC近郊のゲイロード・ナショナルリゾート&コンベンションセンターで行われます。

主催団体はAmerican Conservative Union(ACU)という保守派の本丸的な組織となります。ACUは連邦議員の保守度を格付けして発表する団体としてもしられており、共和党系議員の動向に強い影響を与える存在です。

(高級ホテル&コンベンションセンターをほぼ借り切る形で開催)

CPACに参加している保守派の団体とはどのようなものか

CPACに参加している保守派の団体には様々なものがあります。NRA(全米ライフル協会)やティーパーティーパトリオッツなどの海外でも有名なグラスルーツ、ヘリテージ財団やAEIなどの政策立案を担うシンクタンク、保守系の運動員を教育するThe Leadership Institute、ワシントンタイムズのような保守系メディア、左派系メディアの偏向を監視する団体、リバタリアン系の学生団体、左派の資金源を監視する団体など、実に多様な人々が参加しています。保守派団体ではないものの、IT企業としてはFACEBOOKも出展してました。

 

CPACに集まった人たちは何をしているのか

CPACには全米から保守派の草の根運動に携わっている人が毎年5000~10000万人程度集まります。参加者の年代構成は若い人から高齢の人まで多様です。相対的に白人参加者が多いものの、黒人などの有色人種の参加者もいます。そのため、一部に先行したイメージである白人の集会という理解は間違っていて、筆者のような有色人種がいても何も問題ありません。

では、彼らは集まって何をしているのか、というと、基本的には「保守派のオピニオンリーダーの話を聞く」「運動に携わる人同士の旧交を温める」というだけです。VIP参加者に関しては主要メンバーが一堂に会す機会を活用して、個別に面談・会談をセットされていきます。(筆者も打ち合わせ先や取材先には事前に連絡を入れて日程調整を行います。)

メイン会場では合計100名程度の講演者が自らのオピニオンを10~20分程度のショートトークで会場参加者に伝えていきます。今年はドナルド・トランプ大統領が36年ぶりにレーガン以来の現職大統領としてイベントに参加しました。トランプ大統領は選挙期間中に党内主流派が敵対・脱落する中で、保守派からの支援を受けて当選した経緯があるために出席は当然ということになります。

(メインステージの様子、最前列からVIP、一般。メディア席の順)

その他ペンス副大統領、バノン首席戦略官、プリーバス首席補佐官、デボス教育長官、プルイット環境保護局長官、テッド・クルーズ上院議員、スコットウォーカー・ウィンスコンシン州知事、ケリーアン・コンウェイ大統領顧問、テレビ・ラジオのコメンテーター、大学教授、運動家などが単独またはトークセッションを行っていきます。今回のCPACについて日本ではトランプ大統領の「メディアとの戦い」に関する発言ばかりが報道されていたようですが、それは全体中のほんの一部に過ぎません。むしろ、一セッションに割り当てられた時間は短いので、トランプ大統領の演説も含めてテンポ良くサクサク進んでいく感じです。

参加者は登壇者のどのような話が良かったかをSTRAWPOLLという仕組みで投票することができます。登壇者は参加者からのフィードバックを受けるとともに、大統領選挙が近くなってくると同投票結果によって保守派は「誰を支持しているのか」を伺い知ることもできます。また、メイン会場の参加人数を見るだけでも、人気の講演者は満員、そうでもない人はガラガラだったり、参加者による足による投票も非常にシビアです。

(ペンス副大統領も参加)

 

CPACで登壇者が講演する内容とはどのようなものか

CPACの壇上で講演する人々が語ることは保守派の理念やトピックなどについてです。近年では概ね内容は決まっており、オバマ政権の政策に対する問題点の指摘、保守派としての解決策の基本的な考え方(減税や規制緩和など)、そして自分たちが勝利に向けて更に前進していること、などということになります。

全米から集まる参加者はこれらの話を直接聞くことを自らの考えをブラッシュアップする機会として利用しています。実際話題については、外交から内政まで幅広い内容を知ることができるので3日間メイン会場の椅子に座っているだけで、当該年における保守派が関心を持っているトピックをほぼ理解することが可能です。

とはいうものの、筆者のようにほぼ毎年参加していると基本的な話はほぼ一緒であるため、CPACの登壇者や参加団体の微妙な変化によって、特にあまり触れられなかった話題などについて、共和党保守派内における微妙な力関係や政局状況を把握することができるので、同イベントへの参加も長くなってくると情報源として活用方法が変わります。

会場参加者によると、今年は保守系ニュースサイトのブライトバートが堂々と参加していたことから、リバタリアン系の一部の団体が参加をボイコットした経緯などがあったそうで、トランプ大統領出席にも関わらず僅かに参加人数が減ったように感じました。イベント運営はなかなか気を遣うところもあり大変そうです。

(ブライトバートのブース、日本では人種差別だのなんだのと強面っぽい紹介ばかりされますが、スタッフには黒人もおり、意外と気さくな人たちでした。)

保守系団体の展示会場や就職相談会なども・・・

メイン会場の外には各種団体が自らの活動を紹介する展示会場もあります。参加者はこちらの会場をグルッと回ることで自分がアクセスしたい各種団体の窓口の人と話をすることができる仕組みとなっています。

(展示会のブースを訪ねるとパンフなどで概要を説明してくれる)

会場の中では保守派の団体・シンクタンクなどへの就職先を希望する人向けの就活相談所まであります=下の写真=。こちらは希望する業界・職種などを記入して面談を受けるとコンサルタントが自分に適した団体を選んでくれる至れり尽くせりなシステムです。

就活相談所

 

CPACは政治をシステマチックにした効率的に情報収集できる場所

筆者の感想はCPACというイベントは「保守派の理念・活動状況などを効率よく知ることが出来る場所」というイメージです。日本の政治系のイベントのように「偉い人が話して終わり」という場ではなく、登壇者による「政治ショー」としてエンタメ性もあり、会場に集められた豊富な情報は参加者にとって非常に有意義なものです。

米国では政治のマニュアル化が進んでおり、有権者にイベントなどを通じて情報を伝えていくこと・参加を促していくこと、を効率的・効果的に行うことが徹底されています。CPACのような場は日本の政治系のイベントでは見たことがないタイプのものであり、日本でも政治の近代化に向けて参考にすべきイベントだと言えるでしょう。