PKO撤退、政府大絶賛。読売新聞の“大本営発表”

清谷 信一

撮影:アゴラ編集部(東京・大手町にて)

南スーダンPKO撤退に関する読売新聞の社説がまるで政府の広報みたいです。

【読売社説】
陸自PKO撤収 任務「区切り」の判断は妥当だ:南スーダン

最後の部分がこれです。

疑問なのは、民進党など野党の対応だ。ことさら現地の「治安の悪さ」を強調して陸自撤収を主張し、隊員や家族などの不安を煽あおった。十数か国が部隊を展開させる中、日本が拙速に引き揚げることの影響を認識していたのか。

民進党は国会で、陸自の日報に「戦闘」という表記があることを執拗しつように問題視した。だが、安倍首相からは、民主党政権時の陸自の報告書も武力衝突を「戦闘」と記していた、と反論された。
政府を追及しても自分にはね返るのでは、説得力に欠けよう。

ホント、官房長官の談話でもこんなことはよういいわんでしょう。

安倍首相は撤収の理由について「ジュバでの施設整備は一定の区切りを付けることができる」と語った。妥当な政治判断だろう。

政府の答弁をそのまま丸呑みです。前回も書きましたが本当にそうならば、いついつまでに撤収のめどが立つならば、予定を事前に提示していたはずですし、次の派遣部隊に内示なんぞしていないでしょう。

政府のやることはすべて正しい、チェックをしないというのであれば、それは新聞ではなく政府の広報紙です。

ジュバの治安は、昨年7月に政府軍と前副大統領派が衝突して以降、比較的平穏な状況が続く。当事者の停戦合意など「PKO参加5原則」は守られている。

本当に大笑いです。
状態が悪化しているのは戦車が出てきて戦闘しても、読売新聞では治安は安定というわけです。
9・11の同時多発テロの時も米国の治安は安定だったということになるでしょう。
政府の肩を持つためならば、事実をゆがめてもよろしいという立場なのでしょう。

部隊には昨年11月、安全保障関連法に基づく「駆けつけ警護」と「宿営地の共同防護」の任務が初めて付与された。民間人らに救援要請された際、法に則のっとって助ける。そうした国際標準の行動が可能になったのは特筆すべきだ。

「特筆」すべきなのは、諸外国では当然である衛生の体制が全く劣っているということです。

繰り返します。

1)個人用の衛生キットが諸外国から大きく劣っており、個々の隊員がまともな衛生教育を受けていない。これは防衛省も認めています。

2)個々の隊員はモルヒネや鎮痛剤などを医師法や薬事法の規制で持てない。
つまり手足が飛ぶような大けがをした場合、他国の将兵はとりあえずに痛みから解放されるが、
痛みにのたうち回って絶命するか、手足を失うことになります。

3)メディックの対処能力が低い。
諸外国のメディックが投薬、注射、簡単な手術などができるのに対して、自衛隊ではこれまた医師法や薬事法の規制があり、さらには衛生部、衛生学校の不見識もあり、できないことが多すぎます。

つまり、軍隊の衛生体制と自衛隊のそれは、月とすっぽんほども違います。

更に加えれば、
4)他国では7名は派遣する医官が3名しかおらず、しかもその補助のメディックの能力も低い。
しかも、現場で処置できることは少なく、ケニアに後送というが、そのための航空機を待機させるなどの手段もない。

5)自衛隊の部隊での医官の充足率は2割を切っており、平時の体調管理すらまともにできない状態である。

率直に申し上げて、自衛隊の衛生は戦闘による損害に対処する能力はなく、「お医者さんごっこ」のレベルでしかないわけです。

こういう質問をぼくは、陸幕長や大臣の会見で何回もしました。そのときに読売新聞の記者もいたはずですが、フリーランスの野良犬の言うことなど、相手にせず、だったのでしょうか

例えば高校の遠泳大会で、他の学校は皆普通に泳げるのに、自分の学校は手足を縛って水に突き落としているようなものです。結果溺死した場合に、他校は問われない責任をその学校は問われるでしょう。

政府、防衛省は軍隊の常識から大きく劣った衛生システムであることを知りつつ、「駆けつけ警護」という、戦闘任務を付加したわけです。戦闘任務をする、しないに関わらず、自衛隊部隊が攻撃される可能性はカンボジアの時代からありました

ところが幾星霜、自民党も民主党も我が国の政権は、自衛隊の衛生システムを見直すことをしませんでした。

当然ながら、島嶼防衛やゲリコマ対処といった有事が勃発した場合、どんなことが起こるかは子供でも想像がつくでしょう。しかも国内部隊は3・11の前はファースト・エイド・キットすらなく包帯二本があっただけ、その後のキットも止血帯と、幅の短い包帯が各1本であり、まともなキットとはいえません。

この状態で戦闘を行えば、同じ被害を受けても諸外国の軍隊の何倍、あるいは一桁多い損害をだすでしょう。

平和ぼけの「お花畑」は左翼だけでなく、政府、防衛省も同じレベルです。

実際に人的被害がでることを想定しない組織に、まともな兵器が作れるはずもなでしょう。

読売新聞はこういう現実を報道もしてこなかったし、知ろうともしてこなかった。
ぼくや、今は内閣参与で当時麻布病院の院長だった佐々木医師らが、自衛隊の衛生の不備を指摘してきました。新聞社がそれを知らないはずはありません。

政府も新聞もそれを知っていて、駆けつけ警護、大変よろし、と自衛隊を送り出したわけです。

ぶっちゃけ、人殺しです。

政府もその決定を大絶賛する読売新聞も、兵隊は使い捨てという旧軍の偉い人たちと同じメンタリティーということになります。

実際に戦闘が起きた場合も想像すらしていなかったのでしょう。
ところが、森友問題で政権が揺れて、これで、PKOで死人や手足がなくなる隊員がでれば
自衛隊の衛生がお粗末とは知りませんでした、と申し開きはできません。

当事者意識の欠如、はっきり言えば防衛省、自衛隊、そして最高指揮官である安倍首相の無能が追求されることになります。であるからこそ、今になって急に撤退を言い出したのでしょう。

それを政府は全面的に正しいと、ネットに巣くう、自分が日本人であることしか誇れない、程度の悪い「国士様」と同じメンタリティーで政府の擁護をするわけです。

こういうことをやっていると、もっと発行部数を減らすでしょう。
東芝も朝日新聞もそうですが、危ない企業ほど当事者意識と危機感がないように思えます。

政府のケツを舐めるような、提灯記事を書くことが新聞の仕事ではないでしょう。
こういう新聞が、記者クラブで記者会見を独占して、国民の知る権利の防波堤となっています。
戦前、戦中の大政翼賛会と一体どこが違うのでしょうか。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2017年3月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。