米中首脳会談前、保護主義的な大統領令に署名へ

医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃・代替案への移行が24日に失敗に終わり政策実行力への疑問符がついたのも束の間、トランプ米大統領は28日に気候変動への取り組みを見直す大統領令に署名しました。エネルギーの自立を促進する大義名分を掲げ、環境保護局(EPA)が推進した”クリーン・パワー・プラン”(既存の火力発電所への二酸化炭素の排出規制)も再評価の対象に盛り込まれています。

31日には、米国が不利益を被る貿易動向に対処する大統領令を発令する見通し。骨子は2つで、商務省と通商代表部(USTR)に 1)貿易赤字の拡大につながる要因の洗い出し(国並びに製品別で)、2)アンチ・ダンピングや相殺関税などの対策強化——が柱となります。1)に関し商務省とUSTRは90日以内にレポートを提出しなければなりません。

CNNをはじめ多くのメディアが報じる通り、4月6〜7日にフロリダ州マールアラーゴでの米中首脳会談予定が固まった直後のこのニュース。支持率が低下中であり、トランプ米大統領が得点稼ぎに動いたのであれば短絡的ですよね。

トランプ大統領の支持率は、就任2ヵ月を経て過去最低の41.1%、不支持率は52.7%。

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(出所:Realclearpolitics

3月30日夜にロス商務長官と共に会見に臨んだ国家通商会議(NTC)のナバロ議長は中国など特定の国を狙ったものではないと断っていました。為替報告書に挙がる中国、日本、ドイツをはじめ韓国、台湾、スイスが念頭にあるでしょうが、為替というより貿易慣行の濫用炙り出しが目的だとも付け加えています。

北朝鮮の核開発問題が深刻さを増し、米国として武力行使に踏み切るにも国防副長官や国務副長官など閣僚トップ以外のポストが埋まっていない事情も重なり、いま中国を敵にまわすのは得策ではない。マールアラーゴという舞台を選んだのも、安倍首相へのおもてなし以下であってはならないという米国側の配慮、あるいは中国側の要望があったと考えるのが自然というものです。

トランプ大統領は選挙公約として、就任初日の中国に対する為替操作国認定を挙げていました。しかし、為替操作国認定は端的に言ってしまうと象徴的な意味合いしかありません。認定して制裁を加えるにも、関税賦課を可能にする大統領権限はごく限られます。従ってトランプ政権内では、「為替操作国認定よりも人民元の適正水準をいかに評価するかへ論点が移りつつある」(ワシントン筋)のだとか。米中首脳会談直後に、4月15日に公表予定の為替報告書でも中国を槍玉に上げるとも考えづらいですよね。

トランプ大統領、ツイートで米中首脳会談が「難しいものになる」と吐露。
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(出所:Twitter

また娘婿のクシュナー特別顧問だけでなく自身の会社も中国との関係が深いだけに、米大統領令は落とし所を探るための一手と考えるのが妥当でしょう。かつてドル高かドル安で逡巡しフリン前補佐官に電話をかけた過去があるとはいえ、貿易赤字是正を目指し口先介入以外でドル安誘導を模索し始めたのかもしれません。トランプ政権に絡むニュースでは、戦略経済対話(SED)の担い手でゴールドマン・サックス元最高経営責任者であるポールソン元財務長官の存在が見え隠れするだけに、貿易金融ファシリティの活用などに留意しておくべきでしょう。折しも、米国では機能を停止していた輸出入銀行をトランプ大統領が復活させる可能性が浮上してきましたし。

(カバー写真:Annie C/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年3月31日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。