「都政改革」か「都政最悪」か…入札契約制度の改革案について

川松 真一朗

都政改革本部の第1回会議で挨拶する小池知事(都庁サイトより:編集部)

東京都議会議員の川松真一朗(墨田区選出・都議会自民党最年少)です。

さて、都政改革本部で「入札契約制度の実施方針」が示されました。これがあまりにも現実を無視した驚くべき施策である為、今後是非とも特別顧問の先生方とは相当な時間をかけて議論させて頂きたいトピックです。実際に、下記の通りで報道もされています。下記は産経新聞です。

東京都の抜本改革案全容判明 「1者入札」無効 最低制限価格も撤廃

豊洲市場(東京都江東区)主要3施設の建設工事の平均落札率が99.9%だったことや東京五輪の大型施設工事でも同様の事態があったことを受け、入札・契約制度を見直している都の改革案の全容が30日、分かった。入札参加業者が1者だけとなる「1者入札」を無効とすることや、入札下限額の最低制限価格を撤廃することなどが柱。競争性や透明性を高め、高落札率の抑制を狙う抜本的な改革で、実効性次第では国や全国の自治体にも影響を与えそうだ。都は31日に公表し、6月をめどに試行を始める。今回の見直しは小池百合子知事が就任以来、「ワイズ・スペンディング(賢い支出)」の観点から訴えてきた入札制度改革の一環。

今回発表された入札契約制度についての2017年度実施事項は下記の4つです。

1、予定価格の事後公表

2、JV結成義務の撤廃

3、1者入札の中止

4、低入札価格調査制度の適用拡大

これは「改悪」と後生で語られるのではないかと瞬間的に思った所です。私としては、東京都の最大で最重要なテーマが2020年の東京オリンピック成功であるという立場から、上記の実施事項について私見を述べて参りたいと考えております。

都政改革本部の内部統制プロジェクトチームのメンバーである飯塚正史特別顧問、宇田左近特別顧問、加毛修特別顧問、坂根義範特別顧問、須田徹特別顧問、小池達子特別調査員の方々にはPTとしての一定の方向性を持って知事に政策提言をされたのでしょうが、余りにも現場感の無い提言をして小池知事の判断を誤らせないで頂きたいと考えるものです。

自民党も訴えてきた予定価格の事後公表

PTの考え

事後公表だと東京都の公共工事価格が高止まりになるという前提なんでしょうね。

私達の考え

きちんと積算能力のある会社が必要だと言う理論から事後公表を求めてきたのです。適正価格を求めてやる気もあり職員も充実している会社が東京の公共財を支えていくのが正しい姿。

では予定価格とは何でしょうか?入札を行った際に、この価格より上の価格では落札されないという上限価格です。つまり、これまで都が行ってきた事前公表は、上限基準を業者側が考える事無く、発注者である東京都の各部署が自分達で計算をして先に示してしまうものです。

そして、この事前公表導入の背景として、公表前の予定価格を職員が特定の企業に漏らす不正の撲滅は公共発注機関の長年の課題があった事を付け加えておきます。

JV義務の撤廃の先は?

JV結成用件は入札を難しくさせているという意見があります。しかし、この導入哲学には中小企業の受注機会を増やす為という大義があり、単体になっていくとすれば大企業ばかりの受注は目に見えています。ところが、実態は結果的にその大企業から中小企業へ仕事がおりる事で、従前と仕事を行う企業は一緒なのに中小企業の利益だけが減るのではないかという懸念を私は覚えます。大企業A社・中小企業のB、C社があった場合、今まではA-B-Cという並立の関係が、今後はA→B、A→Cへ協力企業になるだけという事も予想出来るという事です。

私はJVは中小企業の育成という視点から必要であると考えていました。これが単体で、しかも施工実績がマストになると徐々に中小企業の受注機会が減っていくのは自明です。それでは、正義感をもって各地のハード設備を担う正義感のある会社が浮上出来ないのではないかと心配するものです。

1者入札中止・低入札価格調査制度の適用拡大

これらは2020年大会を準備万端で迎えて、大成功に導くという観点からは愚策中の愚策。為政者への無責任な具申者が、自身が仕事をしている事をアピールする為にはとても有効であるとは思います。

これはスピード感を削ぐ事は間違い無しです。そもそも、公共事業は実勢価格との乖離があると各所から言われてきました。その中で、予定価格を事前公表する事で、この価格なら工事が出来る出来ないという各事業者側の判断がある為、特殊な作業を必要とする工事ほど業者が絞られていき1者入札になりやすかったのです。今後は、他の制度改革とあいまって1者入札が減るかもしれませんが、もしあった場合には「やり直し」になるので、時間は絶対的に遅れます。

私だって気付いていた1者入札問題

私は公営企業委員会で下水道局の大型な特殊工事では落札率100%の1者入札も経験してきました。その際には、担当職員とはこの現象について何度もやり取りをして委員会でもだいぶ質疑をしてきたのです。ここには入札不調も続いており、この状態が続くと東京のハード設備は崩壊するのではないかという心配もあったからです。

ちなみに下記の通り私の発言が議事録に残っています。興味のある方は覗いて下さい。

例えば2015年2月13日の 平成27年公営企業委員会では、

「一般競争入札案件五件のうち四件が落札業者以外の入札申込業者が全て応札を辞退するという、いわゆる一者応札となっております。このような状況に際しまして、いつ不調になってしまうのかというような心配を私は抱いたわけです。入札は、透明性とともに競争性が保たれるべきですが、この状況は競争性の欠如というものがかいま見られると思います。この状況を改善すべきという観点で質問をさせていただきます。」

また、調査の適用拡大もスピード感を削ぐ事になりかねません。現行でも低入札の場合に特別重点調査となる事がありあます。これは、都側の想定より低い金額で落札した場合に現場を圧迫しないか?工事は完成出来るのか?などの意味合いから行われるものです。都の工事ではありませんが、新国立競技場の旧施設解体から新施設建設への過程で良く目にしたものです。

最低制限価格の哲学は?

特に2020年を見据えて、自社宣伝の為に低い金額で入札する業者もいるかもしれません。そういった場合にも調査が行われる事は、時間だけでなく都職員の労力もハンパないものです。そこで、私達が主張したのが落札の下限である「最低制限価格」導入でした。これにより、時間と都職員の負担軽減をはかることになったのです。

しかしながら、この最低制限価格さえも否定するPTに一言申し上げておきますが、東京都の現場職員というマンパワーが拡充されない中で踏み切った事は大きな疑問であると。

安ければ何でもいいのか

今回の実施事項全ての奥に共通して見え隠れするのは「安ければ何でもいい」という思想です。確かに、安い方が見た目の数字としては東京都にとってメリットがあります。しかしながら、やはりそこには「安かろう悪かろう」の精神も共存するだろうというのが私の考えです。

「オリンピックまで」という使命を帯びるのならば、工期の問題と価格の問題で、東京都の公共事業をやりたくないという企業が続出するのではないだろうか。そうならないよう、PT主導の中でも、これからも様々な議論を行って、最善の方法を模索していきます。そして、私達もファクトをもって、小池知事へ具申させて頂きたいと考えています。

最悪の事態を回避するために

今後、全体として東京都に求められるのは「発注力」。つまり、現実を知っている職員が現実的な発注を今後どうやってやっていけるのか。昔は官の方が現場を民より知っていたとも言われます。調査に人や時間を取られない正しい発注力をどう育成させるかがポイントでしょう。

そして、今の東京都に大きな存在感を見せていながらも、都議会に対してはやる事が姑息な手法を取るPTと私達が議論出来るのか?これはこのブログを読んで頂き応援して頂ける皆様と空気を作っていかなければなりません。

私が年末に「 色々あった2016年も残りわずか。(2016年12月28日)」で記したように五輪調査チームは議会でヒアリングも出来ないままに解散。

そして、市場問題PTに至っては第1回定例会開会中の2月22日から3月30日までの37日間にわたって市場問題を各所で議論してきたにも関わらず小島座長が閉会直前の3月29日に突如として「小島私案」なる築地市場現地再整備案を発表。

今回の入札の件は4月1日からの試行ですが、何と3月31日の都政改革本部で発表という凄い技を見せてきました。30日の段階で内部統制PTが有識者ヒアリングを行った事で何となく感じてはいましたが、それでも地方自治法で定められた二元代表制を無視するかのような行為で議会は馬鹿にされていると思わずにいられません。

部分最適が全体最適にならないジレンマ

今回の発表事項も実は部分、部分で見れば正しいと私は思います。ところが、それが全て一本の線になって浮上した場合には全体して間違ったものになっているのです。部分ベストが全体ベストにならないというジレンマがそこにあります。そういった事は私達は百も承知で、だからこそ現場に即したベストは何かと追い求めている道半ばだったのが東京都の入札契約制度改革です。

その途中である、今の都議会議員任期中(2013年7月〜)に起こった事として国会の動きも挙げておきます。2015年1月に国会で「担い手三法」がまとまりました。国交省のサイトでまとまっています。この法律が出来たとしても、工事現場の皆様に話を聞くと表面だけになっているのではないかという声が沢山ありました。そこで、私自身は各公共工事の現場がどうなっているのか、どこで流れが悪くなっているのかなどを調査していたのですが、突然の方針転換に戸惑いを隠せません。

私達はこの方針を示したPTメンバーとの直接意見交換を求めています。実現するかどうかは分かりませんが粘り強く頑張っていきたいなと考えます。東京を世界で一番の都市にする為に、ここは手を抜いてはいけないと考えています。


編集部より:このブログは東京都議会議員、川松真一朗氏(自民党、墨田区選出)の公式ブログ 2017年4月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、川松真一朗の「日に日に新たに!!」をご覧ください。