キューバの独裁者、フィデル・カストロ(1926~2016年)が昨年11月25日、死の直前にローマ・カトリック教会の聖職者から病者の塗油(終油の秘蹟)を受けていたという。カストロの愛人と言われる女性、アンナ・マリア・トラリア(Anna Maria Traglia)さんがイタリアの教会放送「TV2000」とのインタビューの中で明らかにした。
トラリアさんは、「イエズス会の神父の話を聞いた。カストロは神父の訪問を受け、宗教の教えに慰めを感じていたという。そしてキリスト教の教えに基づき、静かに亡くなったと聞いた」という。トラリアさんによると、「“Maximo Lider” (カストロの愛称、最も偉大な指導者)は最後の日、一人の神父の訪問を受けた」という。
トラリアさんは、1970年代、パウロ6世の代理としてローマで聖職を担当していたルイジ・トラリア枢機卿(Luigi Traglia)の姪に当たる女性で今年、69歳だ。彼女は27歳の時、ローマのキューバ大使館の秘書を通じてカストロと知り合いとなった。その後、長い間、カストロの愛人といわれ、ハバナで暮らしていた。彼女の願いもあってハバナで教会がオープンされ、彼女は毎週日曜日、ミサに参加したという。ミサが終わり、教会から外に出ると、カストロの車が迎えに来ていたという。
彼女が最後にキューバを訪問したのは1年前、カストロが既に不治の床にあった時だった。そして「2016年5月まで定期的にカストロと電話で交流してきた」という。
トラリアさんは、「最後に会った時、カストロは大きく変わったのを感じた」という。カストロがある日、彼女に、「君が語ってきた信仰の話を思い出している、多くの点で僕ではなく、君の方が正しかったよ」と述べたという。
共産主義者として宗教を弾圧してきた独裁者が死の直前、キリスト者に回心したケースは過去にもあった。チェコスロバキア共産政権下の最後の大統領、グスタフ・フサークの名前を覚えている人は少ないだろう。フサークは1968年8月にソ連軍を中心とした旧ワルシャワ条約軍がプラハに侵攻した「プラハの春」後の“正常化”のために、ソ連のブレジネフ書記長の支援を受けて共産党指導者として辣腕を振るった人物であり、チェコ国民ならばフサーク氏の名前は苦い思いをなくしては想起できない。
そのフサークが死の直前、1991年11月、ブラチスラバ病院の集中治療室のベットに横たわっていた時、同国カトリック教会の司教によって懺悔と終油の秘跡を受け、キリスト者として回心したという話は、国民に大きな衝撃を与えた(「グスタフ・フサークの回心」2006年10月26日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年4月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。