「軸」が定まっていない人はいつまでも本は出せない

2017年04月03日 06:00

2015年12月、銀座の書店に置かれたデビュー作

アゴラで著者セミナーや、出版道場(現在2期生募集中!)を始めてから、「今年こそ本を出したい!」という方々の後押しをするべく鋭意取り組んでいる。大半の参加者は、ご自身のビジネスノウハウを一層広げるのが目的で、当たり前のことだが、本に書けるだけのビジネス経験や実績、充実したノウハウをお持ちだ。

ところが、ごくたまにではあるが、「あれ?この人はなんで本を出したいんだろう」「あれれ?この人の本業の軸は一体どこにあるんだろう」と、首をかしげるパターンも散見される。

企画力も大事だが、そもそもの話…

セミナーや出版道場では、出版社が採用するような企画づくりの考え方を、徹頭徹尾、時には手を動かす作業も含めて体得してもらっている。採用される企画とは、世の中で買ってくれる読者がいるという市場性がなければならない。率直なところ、著者サイドで売り込む際につくった企画案がそのまま出版社に受けいれられるケースは稀で、結果的に出版することになっても企画の中身はガラリと変わっていることのほうが多い。それでも、出版社側が何を求めているのか、企画交渉の土俵に乗るためのマインドを一度しっかり身につければ、デビューした後もその著者の無形の力となれると考えるからみっちりトレーニングさせていただいている。

しかし、当たり前のことだが、売れる、売れない、の以前に、なぜこの人がこの本を書いたのか、読者が書店やアマゾンでその本を見た時の説得性がそもそもないと始まらない。まれに異業種の立場から新鮮な切り口を書く例もないわけではないが、デビュー作であれば「その人が何者か」本業の王道に則った企画こそ「原則」だろう。

極論なたとえかもしれないが、大学受験の予備校で配布される合格体験記を思い浮かべてほしい。東大に合格した人が、入試問題の傾向の違う早稲田や慶応に落ちているのに、さも知ったかのように早慶の入試のアドバイスをしたらどうだろうか。東大志望者は読むかもしれないが、早慶を第一志望にしている人間からすれば、「東大に受かったかもしれないけど、あなた早慶に落ちたでしょ?」と思われてしまって、スルーしてしまうだろう。東大生だからといって、日本の大学受験すべての覇者というわけではない。早慶に受かりたいという人の個別ニーズを100%は捉えきれていないわけだ。

なぜ「ライター」が自著の出版に苦戦するのか?

弁護士が法律に関連する本を、税理士は税金関連の本を、書くべきということは、まだお分かりいただけると思う。意外に見落とされている「落とし穴」は、士業でも、専門領域が明確なコンサルタントでもなく、たとえばライター業をされている方のように、広く浅く、さまざまな分野にタッチしてしまっている人だ。フリーのライター業をしている方は、中には著者の代筆業をされているくらいだから、文章力は申し分ない。

しかし、問題はその人ならではの「何を書くのか」が深堀りできていなかったりする点だ。これもライター系の人の場合、読者が手に取りたいと思うだけの「看板」となる社会的成果、たとえば経営者で独立直後から短期間に何億も稼いだというような実利的な実績がないため、読者はもちろんのこと、編集者にも「この人のことをもっと知りたい」と思わせるだけのパワーが欠けてしまう。単に文章を「書ける」だけではダメなわけだ。

ライター系の人の活路はどうしたら拓けるのか。いま森友学園問題でブレイク中の、のいほい氏(菅野完氏)の『日本会議の研究』(扶桑社出版)に見られるように、あるテーマについて他を圧倒する取材や研究をし、しかもそのテーマがニッチでも一程度の市場性があればチャンスはあるだろう。あるいは、テーマや人物は違えど、そうした取材活動を通じて見えてきた「不変の法則」、たとえば「1000人の経営者を取材して分かった誰でもIPOできるコツ」のような独自分析があれば。ネタになるかもしれない。

私自身も屈辱的な体験はあったが、それがバネになった

振り返れば、私自身も4年前、知人から紹介された、ある小さい出版社の編集長に企画を持ち込んだことがあった。その頃は独立したばかりだが、新聞記者の経験やPR会社勤務で得た「プレスリリースのノウハウ」や、「売れる文章の書き方術」的な企画を作り、その編集長が独自に著者志望者らを集めた勉強会にも顔を出して悪くない反応をもらっていた。

そして、ある日、会社を訪ねていって企画案を詰めに行った時だった。企画案自体は悪くなさそうな感触だった。しかし打ち合わせの終わり、編集長は企画書にあったプロフィールを見て念を押すように尋ねた。

「君、まだ独立して数か月だろう?ここに書いてある文章の事例とか君自身が手がけたものなのかい?」

私は言葉を失うしかなかった。独立直後とはいえ、ノウハウには自信があったが、やはり「時期尚早」と判断された。当時は屈辱的な気分になり、悔しくて悔しくて、その編集長のことをちょっと恨む気持ちにもなったが、今を思えば当たり前のことだ。特にビジネス書を出そうとするなら尚更、本に書かれる内容は、やはり著者自身が手がけた事例があってこそ説得力を持つ。たまに出版セミナーで「独立直後で実績がなくても本はなんとか出せる」という甘言をふりまく業者もいるらしいが、そんなものはデマカセだ。万が一、出版できたとしても、必ずボロが出てくる。

最終的にデビュー作(『ネットで人生 棒に振り替かけた!』)を出すまで2年半かかってしまったが、私の場合は、幸いにもネット選挙解禁で変化に直面する政治・選挙の現場を知る機会を得て、私なりの一つの軸を見出すきっかけになった。新聞社を早まって辞めて転職してからの失敗談、ネット選挙の現場で出会った新しい世の中の動きといった、稀有な体験と、そして世の中の何割かの人には関心を持っていただけるような企画をしつらうことで出版社の企画会議を通すことができた。

そして、その2年半の苦労があったことが2冊目『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)の企画決定時に生きた。ご記憶の通り、きっかけは蓮舫氏の二重国籍問題だったが、昨年9〜10月の事案があって最初に編集者から打診があったのが10月下旬。そして数日で企画書を仕上げ、面談即日で企画のゴーサインが出て、出版までわずか1か月半の短期決戦をスムーズにできたのは、企画の作り方の基本が身についていたからだと当時は感じた。

「軸」をしっかり作るには

しかし、どんなに面白い企画を作るにしても、書き手にそもそもの前提となる「軸」がないと始まらない。

こんなことを書いてしまうと、アゴラの出版道場は厳しいところと思われそうだが(笑)前述の「実績がなくても本はなんとか出せる」といったような甘い言葉を言わないだけだ。実は「軸」があっても定まっていないだけという人も多い。そういう人は企画書づくりと並行して、自分の半生やビジネススキルをはじめとするプロフィールをすべて棚卸しする作業もしっかりやっていただいている。

ただ、いずれにせよ、「軸」が一本もなければ始まらないのは確かだ。出版に向けた学びと並行しつつ、やはり本業で成果を出せるようにしっかり頑張ることが大切だということは、付言しておきます。私も3冊目を出せるように精進します。一緒に頑張りましょう。


【おしらせ】アゴラ出版道場、第2回は5月6日(土)に開講します(隔週土曜、全4回講義、近日詳細発表)。「今年こそ出版したい」という貴方の挑戦をお待ちしています(詳しくはバナーをクリック!)。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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