孫正義氏はなぜ日本一の富豪になったのか

2017年04月11日 11:30

今年のForbes誌の長者番付で、ソフトバンクグループ社長の孫正義氏が資産総額を204億ドル(約2兆2640億円)に増やし、3年ぶりに首位になった。彼がここまでリッチになった原因は何だろうか。その原因をアゴラ経済塾で使っているゲーム理論で考えてみよう。

ソフトバンクが2001年に通信事業に参入したとき、通信業界では誰も成功するとは思っていなかった。このころNTTはデジタル通信の世界標準だったISDNを使っていたが、64kbpsと遅かった。ADSLは1.5Mbpsぐらい出たが、電話局の中にルータを置かせてもらわなければならない。当然NTTは拒否したので、ADSL業者は経営が行き詰まった。この状況を単純化すると、次のようなマトリックスになる(数字はSBの利益)。

両社ともISDNを使っていると、現状維持で利益は1(右下)だが、どっちもADSLを使うとブロードバンドになって利益は3(左上)になるとする。このゲーム(stag hunt)のナッシュ均衡は左上と右下の二つあるが、現状でSBだけADSLを売り出しても、誰も使ってくれないので赤字になる(右上)。

そこで孫氏は総務省に乗り込んでNTTの回線の開放を求め、モデムを無料でばらまくなど、常識はずれの営業をやった。これは普通ならNTTに意地悪されて終わりだが、彼はあおぞら銀行に出資した1000億円の株式を売却して、資金をADSLにつぎ込んだ。その結果、他にもADSLの業者が登場して爆発的に普及し、日本はブロードバンド大国になった(左上)。

このように短期的には空気を読まない不合理な行動であっても、多くの人がついてくれば現状をくつがえし、社会的に望ましい結果(全体最適)が実現できることがある。もちろん孫氏はすぐれた起業家だが、彼がシリコンバレーにいたら、今のような大成功はしなかっただろう。アメリカでは3000以上のCLEC(競争的通信事業者)がADSLに参入したが、電話会社に訴訟を起こされて全滅した。

孫氏の才能は、単独行動を恐れないことだ。通信のようなインフラ業界で役所やNTTと違うことをすると損するが、役所の意向を忖度しないで、技術的にいいものなら思い切って投資する。失敗したら、すぐ撤退する。それは東大を出たエリートがリスクを取らない日本社会では、大きな優位性だ。こんな起業家にとって有利な国は他にない。日本はまだ「のびしろ」が大きいのだ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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