復活祭前の「枝の主日」のテロ事件

キリスト教最大の祝日に当たる「復活祭」前の最後の日曜日の9日、エジプト北部タンタ市とアレクサンドリアの2カ所でキリスト教の少数宗派、コプト派正教会を狙った爆発テロが発生し、40人以上が犠牲、100人以上が負傷した。コプト派正教会を狙ったテロ事件としては過去最大の犠牲をもたらした。イスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)は同日、犯行を声明した。

復活祭は通常、移動祝日で東西両キリスト教会ではグレゴリオ暦とユリウス暦で日付けは異なっているが、今年は両暦とも16日に復活祭を祝う。復活祭前の最後の日曜日の9日はイエスがエルサレム入りする「枝の主日」(棕梠の主日)に当たる。

タンタではコプト派正教会(聖ゲオルグス教会)で男声合唱隊が聖歌を合唱していた時に祭壇近くに仕掛けられた爆弾が爆発し、祝日に集まっていた信者たちが犠牲となった。一方、アレクサンドリアのコプト派の聖マルクス聖堂では爆発が聖堂の外で起き、少なくとも16人が死亡した。同聖堂にはコプト派最高指導者のタワドロス2世がいたが、爆発時には既に礼拝を終えて聖堂を後にしていたので無事だったという。

エジプトでは昨年12月、カイロ中心部にあるコプト派正教会のペーター・パウル教会内で自爆テロがあり、29人が死亡、47人が負傷している。同テロ事件もISが犯行声明を出した。今年2月にはシナイ半島北東部でISの分派がキリスト信者を次々と殺害している。エジプトのコプト正教徒は非イスラム教最大少数派で、人口9938万人(2016年)の約10%と推定されている。

エルシーシ大統領は同日、2件のテロを厳しく批判するとともに、国家防衛評議会を招集し、軍に国内の重要拠点の警備強化を指令した。

エジプトの2件のテロ事件について、世界各地から批判の声が挙がっている。ドイツのガブリエル外相は「宗派間の対立の先鋭化を狙う計算されたテロだ」と指摘。ヨルダン、カタール、バーレーンなどイスラム教国でも批判の声が高まり、レバノンのサード・ハリーリー首相は「全ての宗教価値観への攻撃だ」と非難した。

ローマ・カトリック教会最高指導者、フランシスコ法王は9日、エジプトの2件のテロ事件の犠牲者を慰霊するとともに「テロや暴力の種をまく人々や、武器を製造、密売する人々の心を、神が改心させますように」と述べ、テロ事件を非難した。

ちなみに、フランシスコ法王は今月28日から2日間の日程でエジプトの首都カイロを訪問する。同訪問は、エジプトのエルシーシ大統領、同国のカトリック教会司教会議、キリスト教少数宗派コプト正教会の最高指導者タワドロス2世、そして同国のイスラム教スンニ派の最高権威機関「アズハル」のタイイブ総長らの招請に応じたもの。なお、バチカンからの情報によると、「ローマ法王のエジプト訪問は予定通り実施する」という(「ローマ法王のエジプト訪問の背景」2017年3月21日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年4月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。