【GEPR】原発ゼロは将来世代への「代表なき課税」

2017年05月02日 06:30

原子力規制委員会は、運転開始から40年が経過した日本原子力発電の敦賀1号機、関西電力の美浜1・2号機、中国電力の島根1号機、九州電力の玄海1号機の5基を廃炉にすることを認可した。新規制基準に適合するには多額のコストがかかるので、今後も再稼動できないまま廃炉になる原子炉が出るだろう。

世界的にも、原子力産業には逆風が吹いている。東芝の経営は原子力で破綻し、フランスのアレバも経営危機に直面している。「原発は安全コストを含めると高い」といわれるが、そのコストの大部分は政治的な要因である。

確かに古い原発は危険だ。福島第一原発事故も、老朽化した原子炉を40年を超えて運転したことが原因だったと指摘されている。今回の5基の中でも、日本原電は廃炉を織り込みずみだったと思われるが、その他はまだ使える。世界的には、60年使うのが普通になっている。一律に廃炉にする「40年ルール」には、技術的な根拠がない。

原発を廃炉にすることが望ましい基準は二つある。一つは運転の費用が便益を上回ることだ。美浜の場合、1基を停めることで1日1億円が失われているとすると、1年早く廃炉にすると、2基で720億円が失われ、これは電気代に転嫁される。それに見合う「廃炉の便益」はあるだろうか。

もう一つは原発の安全性だが、美浜1・2号機が福島第一と同じぐらい危険だとしても死者は出ない。チェルノブイリと同じだとしても、国連の推定では死者は60人。最大限の推定(中間集計)をとっても4000人だから、全世界で80人/年である。多くの国際機関が指摘しているように、もっとも危険な電力源は石炭火力なのだ。

WHOの推定では全世界で毎年650万人が大気汚染で早期死亡しているが、その1割以上が石炭火力によるものと推定されている。日本でも、グリーンピースによると「東京・千葉エリアで年間260人が石炭火力で早期死亡」しているそうだ。この1/100としても、チェルノブイリよりはるかに多い。これは気候変動のリスクを含んでいないが、それを含めると原子力の優位性は圧倒的に大きい。

このように原子力は安くてクリーンなエネルギーだが、現実には政治的リスクが非常に大きく、政府も逃げ回るので、電力会社は今後、原発を新設しないだろう。「脱原発」などという目標を掲げなくても、2040年ごろにはほとんどゼロになる。そのころ電気代はどうなるだろうか。

2040年までの電力料金(出所:大和総研)

大和総研の推定によると、原発を再稼動しないですべて止める「原発ゼロ」シナリオの場合、産業用の電力料金は図のように2030年には2010年の2倍近くになり、製造業はほとんど国内では成り立たないだろう。原発が再稼働する「ベースシナリオ」でも1.5倍である。

20年後には中国やロシアの原子力開発が進み、世界の原子力産業の中心になるだろう。彼らはよくも悪くも、地元対策や安全対策のコストが低いので、電気代は日本より安くなる。製造業は海外移転すればいいが、成長率が下がって雇用は失われる。再生可能エネルギーは、さらにコストが高く、火力のバックアップを必要とする。

原発ゼロは将来世代への逆進的な「課税」であり、低所得者ほど負担が大きくなる。彼らが原発を止めて貧しくなることを選択し、それを代表する国会議員がゼロにするならいいが、将来世代には代表権がない。このままなし崩しにゼロにすると、日本から原子力技術が失われ、この変化は不可逆になる。それでいいのだろうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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