「手のひらの砂漠」(唯川恵著 集英社文庫)を読みました。
主人公は夫からのDVを受け続け、シェルターに匿われ、その後も逃げ続ける若い女性です。
実際、夫や元交際相手などから逃げ続け、住民票の閲覧制限をかけている人達が世の中にはたくさんいるのです。執拗に追いかけてくる人格障害の加害者によって人生を台無しにされてしまった人達。
日本の夫婦の6組に1組でDVがあると言われているので、決して他人事ではありません。
それにつけても、本書は被害者の心理状態を見事に描いた秀作と言えるでしょう。
唯川氏の作品は他にも何冊か読んでいますが、いずれもわかり易い文章とストーリー展開の巧みさに驚かされます。本作も、飽きさせることのないストーリー展開で、一気に最後まで読み切ってしまいました。
主人公以外にもDV被害者が何人か登場し、中にはモラルハラスメント被害者もいました。
共通していることは、加害者の不条理さと決してそれが治ることがないという点です。
私自身、小中学生の時に不条理な心身への攻撃を受け続けた経験がありますが、加害者の人格障害が決して治癒するものではないということを知悉しています。
本書に登場する女性弁護士の悔恨として「DV被害者が加害者のところに戻ってしまった」というのがあります。
私も(「本当にあったトンデモ法律トラブル」でも書いたように)同じような苦い経験をしているので胸がズキッときました。同弁護士の戦略や金額等には少し「?」となる点もありましたが、筆者は専門家ではないのでそこはご愛嬌。
ネタバレになってしまうので多くは書けませんが、一人でも多くの人達に是非とも読んでいただきたい一冊です。
特に「自分が至らないんだ」という自責の念を持っている(被害者という自覚のない)方にとっては必読でしょう。
押切もえさんが解説で本書のタイトルの意味について考えを書いています。
私の解釈としては、(孫悟空のように)どこまでも追ってくる加害者の手のひらの上で逃げ回っている被害者、オアシスのない砂漠のような険しい世界で絶望感に打ちひしがれるながら逃げ回る様子、ではないかと考えています。
不条理には不条理で対抗するしかない場合もあるということも、本書は教えてくれています。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年5月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。