防衛省・自衛隊の調達担当者の数は欧州主要国と比べて一桁少ないのが現状です。
だから彼らは非常に忙しい、ということになっています。
ですが、忙しい原因は他にもあります。
それは防衛省、自衛隊が無能だからです。
いつも申し上げているように、防衛省の装備は実質的に契約がありません。
Aという装備を何のために、いくつ、いつまでに調達、戦力化する、そのためにはいくらの予算が必要か。
主要装備にしても国会はこれを知らされず、初年度の予算をつけます。一〇式戦車にしても国会議員は調達数も、いつまでに調達するのか、総額がいくらなのか知りません。それで予算をつけるのは無責任です。
つまり、いつまでこの装備が必要で、予算がいくらかかるかも分からない。
つまり国会は勿論、防衛省、自衛隊には「時間」と「お金」という概念が理解できません。
こういう人たちが、組織がやっているですから不効率になるはずです。
無論各幕では、内々の見積もりはやっていますが、単なる目安にしか過ぎません。
だからダラダラとチョロチョロと調達を続けています。
例えば89式小銃は30年近くたっても64式の更新が完了していません。
仮に89式の調達完了に30年かかるとしましょう。
諸外国ではこんな長期にわたって調達が続くなどあり得ない話ですが、我が国では自衛隊も防衛省も、政治家もおかしいと思わないから放置されています。
この30年の調達を仮に6年に短縮すればどうでしょうか。
調達期間は1/5に減ります。1丁だろうと10万超だろうと、調達の手続きは大して変わりません。
調達期間を1/5に短縮すれば、調達人員は5倍に増えたことと同じです。
逆に言えば、欧米よりも著しく少ない人間で、非効率な調達をしていることによって、実質的な調達人員の差は二桁ぐらい違うことになっているでしょう。
逆に申せば、ダラダラしている調達を1/3に短縮すれば調達人員は3倍に、1/5にすれば5倍に増えたことになります。そこまでしてやっと欧州主要国と1桁違いまで追いつけます。
市ヶ谷のブラック企業では毎日終電とか、週何日も泊まるとかという話を聞いておりますが、それは防衛省と自衛隊のマネジメント能力がないからです。はっきり言えば無能だからです。
更に申せば、調達の「終わり」が見えないのも問題です。
89式にしろ、これが30年計画ならそれでもまだまともです。
いつ完了するのか分からないわけです。
これでは人員配置の計画も本来立ちません。
更に申せば、小銃の調達に30年もかかっていれば最後の方では初期に調達した銃の寿命が来ます。
つまり、例えば20万丁必要だとしても、総数が揃わないうちに、初期生産分が用途廃止になります。
つまりは20万超揃えるという計画自体が実現しません。
しかもその間に、2種類の小銃の併用により弾薬、訓練、整備・兵站が二重になり、効率が悪く、当然お金もかかります。
89式にしても本年度の調達単価は40万円、同世代の諸外国のライフルの8倍程度のお値段です。
もう一つ多いのが、ハンコの数です、市ヶ谷のブラック企業では偉い人のところではズラッと、ハンコ街の隊員が列を作っています。その待ち時間は全く無駄な時間です。こんなことをやっていれば終電で帰れなくなるのは当たり前の話です。
もう一つの問題は特に需品ですが、中央調達の装備でも消耗品は地方調達、つまり部隊で調達することが多い。これが懐中電灯やコピー機のトナーなどみたいに、汎用品であれば問題がありません。
とこが、外国製の特殊な消耗品や備品までも地方調達になる場合が少ないわけです。
1個とか数個の消耗品を、商社に頼み、いちいちEMS、フェデックスなどで頼めばコストがものすごくかかります。
当然ながら各部隊の調達担当者の仕事も増えます。わずか数万円の発注で、部隊担当者や商社の担当者が動きますから極めて非効率です。
これも中央で、一定の見込みで消耗品は備品を調達し、デポで管理して、必要に応じて部隊に発送するようにすれば、コストも勿論、自衛隊内の人でも大幅に削減できます。
しかも、数少ない調達品を後生大事に、チャーター便で届けろと。わずか数個、数キロの貨物をチャーター便で運べと。
こういう特殊なチャーター便は日通が多いのですが、某社の担当者に日通の担当者が「自衛隊って馬鹿なんですか?ウチは仕事ですから受けますけどね」と行っていたそうです。納税者として率直な意見でしょう。
調達担当者の絶対数が足りないのは事実です。
ですがその足りない調達担当者を不要に何倍も忙しくさせて、いるのは防衛省、自衛隊が、頭が悪いからです
人員増を言う前に、頭を使うべきです。
更に申せば、こういう旧軍並みの現場のガンバリズムに頼っていることによって、現場に余裕がありません。ですから勉強する時間も、業務を見直す時間もない。
だから知識もなく、仕様書を業者に丸投げしたりします。
それは自分が何を欲しいか分かっていないということです。更に申せば、仕様書を各企業が自社の製品に都合のいい仕様書を書きます、から競争入札でも事実上落札者が決まっています。これを放置しているのは自衛隊の組織ぐるみの官製談合といっても間違いでありません。
こういう無駄を見直して調達を合理化すれば、防衛産業のメーカーや商社、関連企業も無駄が排除でき、また事業計画も立てやすくなるので、効率や利益率もあがります。補正予算で税金をばらまくより、その方が余程企業にはメリットがあるでしょう。ですが、そのためには同じ分野で棲み分けをしている企業の統廃合、事業統合などが必要です。
使うべきはカネでも、現場の兵隊でもなく頭です。
戦時の標語ではありませんが、「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」であります。
もっと率直に言えば、「足らぬ足らぬは頭が足らぬ」です。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2017年5月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。