主張を説得的にするには「形式的理由」と「実質的理由」を!

2017年06月04日 06:00

不動産登記簿というのがあります。法務局か管理しており、登記簿を見ればその土地の所有者の推移や抵当権の設定の有無などを確認することができます。実は、不動産登記簿に記載されている所有者を真の所有者だと信じて取引しても保護されないのです。

昔「ナニワ金融道」の映画版をレンタルビデオ(当時はビデオでした)を借りてきて観ていたら、次のような場面がありました。

青田という悪い女性が法務局で登記簿を閲覧するフリをして、登記簿原本をすり替えて他人の土地を自分名義の土地にしてしまいます(あくまで登記簿上)。

それを信じた主人公の灰原くん(SMAPの中居さん)が騙されて、不動産に抵当権を入れることを条件に青田に大金を貸してしまういました。青田に騙された灰原くんと帝国金融が大慌てという流れです。
「本当に登記簿をすり替えることができるのか?」と疑問を抱きましたが、灰原くんが泣こうがわめこうが真の所有者(名前は忘れました)には何ら請求ができないのです。登記名義を信頼しても保護されないという原則がありますから(登記に公信力がないと説明されます)。

そこで、次のような例を考えてみましょう。

鈴木さんがある土地を佐藤さんに売却して登記名義が「佐藤一郎」になりました。ところが鈴木さんは未成年で両親の同意もなかったので、佐藤さんとの売買契約を取り消して代金を返しました。
しかし、登記名義を自分に戻すのは面倒だったので、登記簿上の名義は「佐藤一郎」のまま放っておきました。自分名義のままであることを知った佐藤さんは、その土地を(事情を知らない)山田さんに売却して代金も受け取りました。

土地が山田さん名義になっているのを知って慌てた鈴木さんと両親、山田さんを相手に訴訟を提起しました。名義を鈴木に戻せと(登記原因の詳細は省略)。大原則からすると、登記名義を信用した山田さんは保護されません。

しかし、他人名義(「佐藤一郎」名義)であることを知りながら放ったらかしておいた鈴木さんと、佐藤さんの巧みな言葉と登記名義を信頼した山田さん、どとちらを保護するのが妥当でしょうか?ちなみに、悪者の佐藤さんはお金を持ち逃げして行方不明です。

おそらく、多くの人は何とかして山田さんを保護したいと思うでしょう。登記名義を他人のまま放っておいた鈴木さんには落ち度があります(帰責事由と言います)。それに対して、(公信力はないものの)登記名義人である佐藤さんを信じた山田さんは、(鈴木さんと佐藤さんとの事情を全く知すすべがなかったので)同情すべき理由があります(保護事由といいます)。

鈴木さんと山田さんを天秤にかけて利益衡量をすれば、裁判所としては山田さんを助けたい。しかし、山田さんを助ける法律の条文がない。

そこで、民法94条2項(通謀虚偽表示は無効だが善意の第三者に対抗できない)という条文を、類推適用しようと考えたわけです。
94条の通謀虚偽表示というのは、ある人が国税等の差押えを逃れるために自分の土地の名義を(友人と通謀して)友人名義にしてもらうようなケースです。当事者間で所有権を移転する意思はないので原則無効とするのが1項です。しかし、友人名義を信用した善意の第三者に対しては、「無効だから返せ」とは言えないというのが2項です。

先の例で、鈴木さんと佐藤さんは決して(通謀して)架空の名義替えをした訳ではありません。ですから、94条をダイレクトに使うことはできません。

しかし、佐藤さん名義を放っておいた鈴木さんには、通謀したのと同じくらい「落ち度」があり、事情を知らなかった山田さんにとっては通謀であったか否かで結論が180度変わるのは酷です。

ということで、裁判所は94条2項を類推適用して山田さんを保護することにします。
この事例は、法律関係の有資格者や民法総則を学習している法学部の学生にとってお馴染みの事例です。

それを敢えて取り上げたのは、法律上の理由には「形式的理由」と「実質的理由」が必要だということを説明したかったからです。先の例の「実質的理由」は”山田さんを保護しないのは酷だ”という社会通念のようなものであり、「形式的理由」は民法94条2項という条文を使うという法解釈です。

裁判所の判決でもわれわれ弁護士が民事訴訟で主張する場合でも、「形式的理由」と「実質的理由」を挙げることが重要なのです。

例えば「手形法の善意取得の制度は大量迅速な商取引を円滑ならしめるものである」という形式的理由と「大事な手形をパクられた不注意なプロの商人より、手形を信用した商人を保護するのが妥当だ」という実質的理由が考えられるでしょう。

私は、後輩の弁護士に「準備書面で当方の主張を書く時は、できる限り形式的理由と実質的理由を挙げた方が説得力がある」とアドバイスしています。

「まず、本条の制度趣旨からすれば〇〇と解するのが妥当である。次に、かかる状況で被告の主張を認めると、原告は極めて悲惨な状況に陥り著しく社会正義に反する」というような具合です。多くの有名な判決の理由にも「形式的理由」と「実質的理由」が書かれています。

「もしかかる請求が是認されるならば、妻はまったく俗にいう踏んだり蹴ったりである」という熱血感あふれる(?)実質的理由を述べた有名な判決もありました(笑)

これをビジネス的に表現すれば、「筋が通っている」ことと「分がある」「納得感がある」ことだと考えることができます。多くの場面で自分や自社の主張を補強することができるテクニックですので、是非、活用してみて下さいね。

荘司 雅彦
2017-03-16

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年6月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。

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