従来の農業の“真逆”をいく戦略づくり

畔柳 茂樹

製造業出身でモノづくりにこだわりがある

突然ですが、皆さんは完熟したブルーベリーを食べたことはありますか?

たぶん、ほとんどの方は未熟な果実しか食べたことがないのではないかと思います。

というのは、完熟したブルーベリーは傷みが早く売り物にならないため、市販のものはほぼすべて未熟な状態の果実だからです。つまり、完熟したものを食べたいなら、“ブルーベリー狩り”などで木になっている完熟果実を摘み取って食べるしかないというわけです。

私もこの業界に飛び込むまで知らなかったのですが、しっかりと育ち完熟した果実は、ビックリするくらいの美味しさです。当園「ブルーベリーファームおかざき」では40種類を厳選栽培していますが、大きいものでは一粒500円玉大にもなり糖度も高く、今年もご来園されたお客様から「ブルーベリーってこんなに大粒で甘いの」「美味しくてやめられない」という声を聞くことができています。

このときこそが私の喜びであり、製造業出身でモノづくりにこだわりがある私にとっての仕事のやりがいです。

お客様とダイレクトにつながることのできる観光農園

拙著『最強の農起業!』(かんき出版)にも詳しく記しましたが、私は大手企業の管理職から脱サラし、異業種である農業の世界に参入しました。

そして、前回までの記事でお話ししたとおり、従来の農業に欠けていた“生産性”の考え方を追求しつつ、品質の高いブルーベリーを栽培しています。しかも、タイトルのとおり、年間60日あまりの営業日以外はほぼ週休5日というスタイルでありながら、2千万円を上回る年収を得ることができているのです。

このゆったりしたライフスタイルも、金銭的な面ももちろん満足していますが、なによりも嬉しいのは、先述のとおりお客様と直接触れ合い、喜ぶ顔を見られることです。

親子連れに楽しい収穫「体験」を提供

私が脱サラする際にまず決めていたのが、“お客様とダイレクトにつながることのできる仕事をしよう”ということでした。私の前職はデンソーという自動車部品世界NO.1企業の管理職だったのですが、典型的な「BtoB」の企業だったため、残念なことに、サラリーマン生活20年間でお客様から感謝の言葉をいただいたことは一度もありません。

ですから、せっかく脱サラして起業するのであれば、直接お客さまの顔が見えて交流ができる仕事にすると決めていました。そして、さまざまな形態を比較検討した末、ブルーベリー観光農園というカタチにたどり着いたのです。

“モノ”を売るのではなく“体験”を売る

長く在籍していた前職の企画部門での考え方が染みついていたため、コトを始めるにあたって、農園のビジョン、戦略、ブランディングなどをまずは考えました。

農業であれ製造業であれ、“高品質”にとことんこだわることは大前提。そして、ただモノを売るのではなく“体験を売る”ことを重視し、ゲストへの「おもてなし」に重点を置くことをビジョンに掲げました。

そして、この理念、ビジョンを実現するための経営戦略のひとつとして「戦わないポジショニング」を考えました。すなわち、戦わない世界を自ら作ってしまうこと。この戦略を活用して成功した事例としてよく取り上げられるのは、斜陽産業のサーカス業界で飛躍的な成長を遂げたシルク・ドゥ・ソレイユです。

その戦略は、わかりやすく言うと、既存のサーカスの真逆をやったこと。スターや動物を使わずにコストを下げ、逆にテーマ性を持たせて大人向けにすることによって価格設定を上げ、落ち目のサーカスの中にあって、唯一大きく成長したのです。

この成功事例から私も大きなヒントを得ました。農業もサーカスと同じく、斜陽産業。ゆえに自分も従来の農業、観光農園の“真逆”をやってみようと考えたのです。

従来の常識を覆す“団体客お断り”

この戦略に沿って決めたのは、団体客の受け入れをお断りし、個人客専用の農園にすること。

従来の観光農園の主体である団体客をお断りするという方針は、周囲にはかなり驚かれる、思い切ったものでした。

私の思いとしては、当園にお越しくださるお客様には、ゆったりと、贅沢な時間をすごしていただきたい。ですが、団体客が入ると、やはり慌ただしく騒がしく、集団心理でマナーも悪くなりがちです。

実際、開園後一度だけ私の勘違いで団体客を受け入れたのですが、赤い顔をしたほろ酔い気分の人々は、こちらの話を聞いてくれず、各人思い付きの質問が次々飛んできて、立ち入り禁止区域に入る、声が大きく笑い声も品がない……など、とても私がめざす農園のお客さまとはほど遠い存在でした。これ以降、団体受け入れ不可の姿勢を貫き、今でも、観光バス会社から毎年、何度となくツアー受け入れの依頼がありますが、この方針を説明して丁重にお断りしています。

高価格帯でターゲットを絞る

そして2つめの戦略は、高価格帯に設定したこと。当園のブルーベリー狩りは、基本的に時間無制限(土日の混雑時は90分~2時間の場合もある)の食べ放題で、料金は大人2000円、子ども1500円という他園に比べて高めの価格です。つまり、「とにかく安い方がいい」ではなく、価格よりも良いモノ、良いサービスを求めるお客様をターゲティングしたのです。

開店して2年目に、この価格設定で失敗したことがありました。シーズンも終了間際で、もう一度お客様を増やして締めくくろうと考え、価格を30%ほど値下げしたのです。すると、とてもわかりやすいことが起こりました。あの品のいいお客様はどこかに消えてしまい、それまでほとんどなかったクレームが、たくさん耳に入るようになったのです。価格設定はお客様のセグメントを決定づける大きな要因だと、このとき身を持って経験したのでした。

「農園カフェ」の人気商品、ブルーベリーフローズン

価格は上げていますが、その分、入園無料でカフェのあるレストスペースをご利用いただけるなどし、雰囲気、おもてなしなどを総合的に判断して、結果的には割安に感じてもらえるような農園をめざしています。

このように、「団体客お断り」「高価格帯」で、商品ではなく“体験”を売る、という新しい方針を掲げた当園は、おかげさまで、1シーズンに1万人以上が訪れる愛知県有数の夏の観光スポットに成長しました。ブランディングは成功していると言えるのではないかと自負しています。

次回は、観光農園というシステムが解消した、ブルーベリー栽培における最大のボトルネック、“収穫作業”についてお話ししたいと思います。

(構成:山岸美夕紀)

最強の農起業!
畔柳 茂樹
かんき出版

2017-06-07

 

畔柳 茂樹 (くろやなぎしげき)
農業起業家。愛知県岡崎市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。

愛知県岡崎市生まれ。早稲田大学卒業後、自動車部品世界No.1のデンソーに入社。40歳で事業企画課長に就任も長年の憧れだった農業への転身を決意。2007年、観光農園「ブルーベリーファームおかざき」を開設した。

起業後は、デンソー時代に培ったスキルを生かし、栽培の無人化、IT集客など新風を吹かせ、ひと夏1万人が訪れる地元の名物スポットへと成長。わずか60日余りの営業で、会社員時代を大きく超える年収を実現した。近年は観光農園プロデュースに取り組み、被災地復興事業として気仙沼にも観光農園を立ち上げた。これらの経歴・活動がマスコミで注目され、取材・報道は100回を超える。