座右の銘が「面従腹背」;これで教育行政は大丈夫か!

昨日の国会中継を少しだけ見た。メモがあるのかどうか、チマチマとした質問が続いていたので、馬鹿馬鹿しくなってシャットダウンした。役所は重要な会議のメモを残すことなど常識だ。かつて在職していた医療イノベーション推進室での会議でさえ、メモが作成され、各省庁に配布されていた。短期間とはいえ、政権を担っていたのだから、メモが作成されていたのかどうかは知っているはずだ。ましてや、審議官に再三再四同じような質問をした議員は、内閣官房にいたではないのか?役所がどうなっているのか、自分の経験に基づけば、もっと内容のある質問ができたはずだ。 

あの質疑を聞いていると、追及をしているポーズだけの茶番劇に思えてならない。民主主義と言えば響きは美しいが、美しい声を揃えても、岩盤規制・利権擁護の壁を壊すのは絶対無理だと思う。規制改革は民主党政権の旗印ではなかったのか、与党時と野党になった今とを比べて、180度言っていることが違うブーメランを連発するから支持率が一桁になっている現実を直視すべきではないのか?また、左翼系メディアは、メモの存在が明らかになったことで大はしゃぎしているが、役所内部の情報がダダ漏れになっている状況は、国として大きな問題ではないのか? 

そもそも文部行政のトップだった人が、私の座右の銘は「面従腹背」ですと、堂々とテレビで宣言するなど、呆れかえって言葉が出てこない。教育行政を担う人が、「面従腹背」を誇って、子供たちにどんな教育ができるのだ。大人が言ったことが面白くなければ、「とりあえず、ハイと答え、心の中でアカンベーと舌を出しておけ」というのか。国のシステムを歪めたと非難しているが、この座右の銘に沿って、教育を歪めていないのか検証してほしい。 

役所のシステムは破綻しているし、そんな尻馬に乗って、国会の時間を浪費している議員に給料を払うなど税金の無駄だ。テレビを見ていても、自分たちの思想に則って、一方的な考えを中心に番組を制作しているのが見え見えだ。医療保険制度が破たん寸前まで来ているし、がん対策、高齢化対策、受動喫煙問題など、国として大きな課題が山積しているなかで、この小学生のような国会の議論は悲劇だ。受動喫煙などの問題も、選挙の際の投票指標として、自分たちの主張をテレビの前でぶつけ合って欲しいものだ。

話は突然変わるが、「Business of Oncology」という雑誌に、「Financial Impact of Cancer Drug Wastage and Potential Cost Savings From Mitigation Strategies」という論文が発表されていた。これは、抗がん剤は1バイアルごとに一定の量の薬剤が入っているが、一人の患者さんに、そのバイアル全部を使い切るわけではない。この際、残った分は廃棄される。この廃棄される分は、全くの無駄となる。それが薬剤費全体の15%強になると試算されていた。これを効率よく利用する方式に変えれば、大幅な薬剤費の節約となる。ゴミ袋に廃棄されていた、大量の処方薬を目にしたこともある。税金が原資となる医療保険制度が維持可能かどうかの瀬戸際だ。みんなが少しずつ努力するだけで、総量として大きな無駄の回避ができるはずだ。各政党には、医療保険制度の維持のための施策を議論して欲しいと願っている。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年6月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。