6月15日の欧米の国債は珍しく揃って下落していた。これは前日14日に発表された5月の米消費者物価指数が予想に反して前月から0.1%低下となり、今後のFRBの利上げペースについてやや懐疑的な見方となり、米10年債利回りが大きく低下した反動とも言えたが、別の要因も絡んでいた。
14日にはFOMCが開催されて予想通りの追加利上げが決定された。年内はさらに1回、2018年中にも3回の利上げを見込む政策シナリオは維持した。4兆5000億ドルの保有証券縮小計画についても年内着手と正式に表明した。さらにイエレン議長は最近のインフレ指標低下は一時的な事柄が要因と指摘していた。それにも関わらず、この日に米債が大きく買い進まれたのは、市場参加者は今後の利上げペースに疑心暗鬼になっていたためとみられる。
そこにまた別途材料が現れた。イングランド銀行である。15日のイングランド銀行の金融政策委員会では、政策金利を0.25%に据え置くことを決定した。ただし、これについては今回もフォーブス委員だけが利上げを主張するとみられていたのが、マカファーティー、ソーンダーズ両委員が利上げ派に加わり、5対3の僅差での現状維持決定となっていたのである。
1~3月期の英国の実質GDP成長率は前期比0.2%増と低調となっていただけでなく、EU離脱そのものも不透明要因となっている。メイ首相が賭けに出た総選挙では、メイ首相の保守党が議席数を減らし過半数割れとなり、さらに不透明感が増している。そのような状況下、イングランド銀行が利上げを行うことはかなり困難とみられていた。
ただし、この不透明感の強まりはポンド安を招き、ポンド安の影響もあって英国の5月の消費者物価指数は前年同月比2.9%もの上昇、英中銀の物価目標の2%を大幅に上回っていた。今回のMPCでの利上げ派はこの物価を意識したものであろう。
これにより、今後イングランド銀行が利上げを決定する可能性が多少なり出てきた。これを受けて15日にはポンドが買われ、英国債が下落した。フランスの国債入札がやや低調となっていたことも材料視された。8日のECB理事会の政策に関する声明では、追加利下げに関する文言を削除し、追加緩和に前向きの姿勢から中立姿勢に修正したことも意識されたことで、ユーロ圏の国債も売り込まれ、それが15日の米国債の売りに繋がった面もあった。
すでにカーニー総裁の古巣であるカナダ銀行も、副総裁から利上げを示唆するような発言が出ていた。欧米の中央銀行ではFRBが先んじて正常化を開始し、それにカナダ銀行、さらにはイングランド銀行が追随してくる可能性が出てきた。方向性までは変えなかったものの、ECBも緩和に傾斜していた姿勢を中立に戻している。日銀はいつでも追加緩和は可能と主張するが、すでにステルステーパリングを行っており、追加緩和といってもマイナス金利の深掘りなど現実的に困難でもある。実質的に日銀も中立スタンスにいるようにみえる。
そもそも現在、非伝統的な金融政策とか、異次元緩和が必要とされるほどの危機的状況にいるわけではない。中央銀行の正常化への歩みは当然といえば当然ながら、あまりに金融緩和に傾きすぎて、なおかつ市場の反応を過度に気にするあまり、出口政策はなかなか難しい。英国を除き物価が目標を下回っていることも、正常化を納得させずらくしている。しかし、いずれにしても日銀以外は新たなリスクが発生するようなことがない限りは、正常化に向けた歩みをはじめる準備をしていることも確かではなかろうか。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年6月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。