警察の最大の武器は「共謀罪」ではない

2017年06月18日 12:30

「共謀罪」法の成立で「監視社会」になるという話が、また出ているようだ。これは「国民総背番号」や個人情報保護法のときも、一部の人々が騒いだ話だ。もう忘れた人も多いようなので、当時どれほどヒステリックな騒ぎが起こったかを思い出してみよう。

  • グリーンカードは”国民総背番号制”で、これを実施すれば国民のプライバシーが侵害される。――金丸信(1983)
  • 国民に対する権力の監視の目を厳しくする法案として民主党が問題としているものに、住民基本台帳法、いわゆる国民総背番号法があります。――枝野幸男(1999)
  • 個人の統一的管理システムの構築を認めない。――日弁連「自己情報コントロール権を情報主権として確立するための宣言」(2002)
  • 住基ネットは国民を裸で立たせるものだ。――櫻井よしこ(2002)

最初に「監視社会」に反対したのは、いったん成立したグリーンカード(少額貯蓄の名寄せ制度)を廃止させて裏金を隠す政治家だった。それに国民の不安を煽る野党が迎合し、無知なメディアや評論家ばかりか、法律家まで合流して「監視社会」に反対する大合唱が起こり、個人情報保護法という悪法ができた。「マイナンバー」ができたのは、その10年後だ。

国家権力がパノプティコンとして国民を「一望監視」するというメタファーは昔話である。フーコーものちに気づいたように、現代社会では民衆が民衆を監視するのだ。警察が、たとえば櫻井よしこ氏を監視するとき、もっとも効率的な手段はインターネットだ。グーグルで彼女の名前を検索すれば、123万件も出てくる。すでにあらゆる「個人情報」がネットで監視されており、それを元に戻すことはできない。

共謀罪の対象は「組織的犯罪集団」で、国民一般を対象にするものではない。普通の人にとって恐いのは強制捜査ではなく、前川元次官の「出会い系バー」騒動のようなマスコミを使った情報操作だ。痴漢の容疑で取り調べを受けただけでも、新聞に載ると職を失う場合がある。逆に山口敬之事件のように、逮捕状を止めてマスコミに便宜をはかることもできる。

警察のコア機能は暴力(強制捜査)だが、裁判所から令状を取るのは簡単ではない。令状なしで個人の秘密をさぐって弱みを握り、時にはマスコミにリークする裁量が警察の最大の武器である。あなたが共謀罪の対象になる心配はないが、痴漢冤罪で人生を棒に振るリスクはゼロではない。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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