「単なる対立構図だと思われたくないんです」――
7月2日に投開票を迎える東京都議会議員選挙がかつてないほどに盛り上がりを見せています。中でも有権者の注目を集めているのは、小池百合子都知事率いる都民ファーストの会と自民党東京都支部連合会(以下、自民党都連)の対立構図。
しかし、「実際にはメディア等で報じられているほど対立しているわけではない」と自民党都連会長・下村博文衆議院議員は述べます。どのように都議選を戦い、都政を進めていくのか、下村氏へインタビューを行いました。
小池都知事の「ワイドショー型選挙」ではなく、政治本来の姿で
-選挙ドットコム編集部(以下、編集部)
今回の都議選はかつてないほどに注目を集めています。自民党都連会長の下村氏としては、この現状をどう捉えられていますか?
-自民党都連会長 下村博文氏(以下、下村氏)
これはひとえに小池百合子都知事の発信力のおかげですね。都民のみならず、国民の目を都政に向けたことは高く評価しています。
しかし、今回の選挙が都議会議員の選挙であるにも関わらず、知事を中心とした「ワイドショー型」の選挙になっているのは遺憾に思います。
小池知事を悲劇のヒロインに、自民党都連を悪役に仕上げた対立構図はバラエティとしては面白く、注目を集めやすいのかもしれません。ですが、それだけでは実際の都政が前に進むとは思えません。都知事就任からももう10ヶ月経ちますので、「果たして小池都政になって何が変わったのか?実際には何も進んでいないじゃないのか」と、有権者も気付いているのではないでしょうか。
そもそも自民党都連は小池知事とそこまで対立をしていないのですよ。健全に都政を運営すべく行動しているだけです。
-編集部
「自民党 VS 都民ファーストの会」という構図が注目されている中で、「小池氏とはそこまで対立していない」というのは驚きです。
-下村氏
例えば、自民党都連は都議会での予算も条例も全て賛成しているんです。もちろん中身をチェックし、最終的に賛成だと判断したからです。ただ「小池知事がやっていることだからダメだ」と反対の声を挙げているわけではありません。
都民ファーストの会は私たち自民党を目の敵のように思っているかもしれませんが、私たちは「政局争い」ではなく、「どうすれば都政が前に進んでいくのか」が大切だと考えています。そのため、しっかりと問題である点は訴えながら、是々非々で政策を今後も評価していきます。協力すべきところは今後も進んで協力していきます。
決断・スピードを求めているのは、むしろ自民党の方なんです
-編集部
自民党都連会長という立場として、都議選をどのように進めていこうと考えていますか?
-下村氏
現在都民ファーストの会が多くの議席を獲得することが報道などで予想されています。ただ、地方議会は首長と議会の二元代表制で運営されているものです。小池知事が自らの政党を作って議席を過半数獲得するような姿勢は、二元代表制を否定することにつながります。二元代表制を否定するということは、一種の独裁政治になりかねません。そうしたら都議会なんていらなくなってしまい、全て都知事の考えだけで都政が進められることになります。議会と首長のあいだには常に緊張感が必要であり、議会がしっかりチェックする必要があります。
自民党都連は正攻法で選挙を戦い、有権者の皆様の支持を得られるように想いをお伝えしていきます。小池知事の繰り広げるワイドショー型の選挙は、政治本来の姿ではありませんから。
-編集部
都議選に向けての政策や意気込みをお聞かせください。
-下村氏
自民党の強みは、その地域に根ざし、長らく住民の声を聞いてきた候補者がいることです。
例えば区議や都議として地域に密着して活動した実績がある等です。誰がその地域(選挙区)の代表者にふさわしいか有権者の皆さんに訴えれば、きっとご理解いただけると思っています。ただ、私たちにも反省すべき箇所があったことは事実です。そこは真摯に反省し、有権者の方々にはひとりひとり丁寧に想いをお伝えしていきたい所存です。
また、自民党は国や他の道府県とのつながりが強いことも強みのひとつです。例えば都民ファーストの会の候補者は政治そのものが未経験であったり、国や他の道府県に対してネットワークがないことが多いですが、自民党であれば政権とも連携をしっかりとることができます。必ず今回の都議選の争点となる「東京オリンピック・パラリンピック」は、オールジャパン、日本全体が一丸になって取り組まねばならないものです。埼玉県や神奈川県などの他県の仮設費用を都が全額負担することに決まりましたが、その決め方を見ていても他県や国との連携が取れていないように思えます。自民党が都政のリードを取り、他県や国と連携を取り、オールジャパンで成功に導けるように都議選でも訴えていきたいと思います。
-編集部
都議選の争点としては、やはり東京オリンピック・パラリンピックが中心になるのでしょうか?
-下村氏
東京オリンピック・パラリンピック以外にも、築地市場の豊洲移転問題も争点になってくると考えています。豊洲移転問題については、自民党は早期の新市場移転を求めています。何と言っても、現在小池知事が移転について「決断できず何も決められていない」状況であることのデメリットが非常に大きいんですよ。豊洲は専門家や科学者も安全だと発言しています。建物の維持管理だけでも予算がかかっています。決断が遅くなればなるほど、余計なお金がかかっている状況です。
この無駄になっているお金を待機児童問題や特別養護老人ホームの入居待ち対策に回せるのではないのでしょうか? 小池都政はスピードを重視しているとアピールしているようですが、都政の根幹に関わる部分はむしろ、スピードが止まっています。
また、今回の二大争点「東京オリンピック・パラリンピック」「築地市場の豊洲移転」は実は繋がっているんです。築地の跡地にはオリンピック関係者の車両6000台を駐車できる駐車場を作る予定だったのですが、現在この件については全く決まっていることがありません。会場や選手村をつなぐ「環状2号線」は築地市場の跡地を通る予定になっているのですが、この計画も止まってしまっていて、何も決まっていません。これらも小池知事が決断を止めていることによる大きな弊害です。決断するスピードを求めているのは、都民ファーストの会ではなく、むしろ私たち自民党都連なのです。
感謝と苦労が使命感になった。教育を政治で変えたい
-編集部
下村氏は現在、衆議院議員を務められていますが、その前には都議も経験されていますよね。政治家を志したきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
-下村氏
私が政治家を志したきっかけは「使命感」です。特に、若い頃の教育に関する思いが、私の志のみなもとになっています。
私は9歳のときに父親を交通事故で亡くし、小さな弟2人と母の4人家族で暮らしていました。交通事故の遺児に奨学金を出す交通遺児育英会が高校1年生の時に発足し、他にも給付制の奨学金を受け取りながら勉学に励みました。その後は早稲田大学に進学することができました。
しかし、このように周囲の方々から支援を受けて勉学をする上で、感謝の気持ちと同時に非常に辛い思いもありました。私自身が育英会の活動の中で、街頭で募金を呼びかけることもあったのですが、その時の思いは今でも忘れられません。何度も何度も頭を下げて募金をもらうのはとても辛い経験です。
交通事故は、子どもたち自身が悪いわけではありません。どの家庭にも、誰にでも起こりうる事故です。それなのに頭を下げてお金を恵んでもらわないと学校に行けない…
この時の思いが、「私の後輩たちにはこんな辛い思いはさせたくない」「教育を政治で変えなければならない」という強い使命感に変わり、それが政治家としての原動力になっています。
1989年に都議に初当選し、2期務めた後、衆議院議員選挙に7期連続当選しています。自民党では文部科学大臣等を務め、自民党都連の会長は昨年9月から務めています。都連会長に就任した際は、「何も火中の栗を拾うようなことをしなくても……」と言われたこともありましたが(笑)、この現状を良くしたいという使命感で引き受けました。
一緒に幸福な未来を作っていく、そのために投票に行ってほしい
-編集部
最後に、読者の皆様に向けてメッセージをお願いします。
-下村氏
「日本社会は硬直していて変えられない」と思わず、ぜひ投票に行ってほしいと思います。
近い将来多くの仕事がAIに奪われるという懸念が出ています。その時代の変化を傍観者として眺めるのではなく、主体的に社会に関わり、一緒に幸福な未来を作る側の存在になりましょう。
社会はみんなで作るものですから、皆様の意思がとても大切です。その意思を表明し、社会を作る側に回るための最も身近な行動が投票です。都民の皆様には、まず投票から都政にぜひ関わっていただきたいと思います。
-編集部
本日は貴重なお話ありがとうございました。