自衛隊員「なりすまし」政治利用は、もうやめてほしい

2017年06月29日 09:00

防衛省サイトより:編集部

稲田朋美防衛大臣の「自衛隊としてお願いします」発言を見て、私は、自分自身が6月20日に書いたブログ記事を思い出した。「自衛隊員の立場を勝手に代弁するのはルール違反ではないか」という題名を付した記事だ。

朝日新聞の対談において長谷部恭男・早稲田大学教授(元東大法学部教授)が、安倍首相は「改憲の道具として自衛隊利用」をしているので「自衛官の尊厳がコケにされている」と発言しているのを見て、私は「気分が悪くなった」。

私が「気分が悪くなった」理由は、見え見えの子供だましの話しぶりで、自分の政治的立場を正当化するために、勝手に「自衛官の尊厳」なるものを振りかざし、自分自身が自衛隊を政治利用していることに、全く良心の呵責を感じていない様子である言論人を見た気がしたからだ。他人=権力者は、自衛隊を政治利用してはいけない。しかし憲法学者なら、自衛隊を政治利用してもよい。といわんばかりの法技術論に、「気分が悪くなった」。
素朴に見て、5月3日の安倍首相の発言のほうが、品が良いと思う。安倍首相は、次のように言っていた。

今日、災害救助を含め命懸けで、24時間365日、領土、領海、領空、日本人の命を守り抜く、その任務を果たしている自衛隊の姿に対して、国民の信頼は9割を超えています。しかし、多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が今なお存在しています。「自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ」というのは、あまりにも無責任です。

この発言の姿勢は、いわば自衛隊員に「なりすまし」て、勝手に自衛隊員を代弁しようとしたりする態度とは、違っていると思う。自衛隊員を統括する最高責任者として、部下である自衛隊員の憲法上の位置づけを明確化したいという思いを吐露した上で、その思いを共有してほしいと国民に求めるため、改憲案を政治的議題として世に問うことを表明した。政治家としてまっとうな姿勢ではないだろうか。

イデオロギー的・政策的な評価は別にして、安倍首相が、少なくとも政治家として持つべき基本的な素養を持った人物であることは、稲田大臣の「失言」との比較では、明らかになったような気がする。

稲田大臣の態度は、大臣としての地位を自民党のために「政治利用」して、自衛隊員に「なりすまし」、勝手に23万自衛隊員を特定政党への投票行動のレベルで独断的に代弁したものだ。権力を逆手にとった狡猾な「政治利用」以外の何ものでもない。憲法学の最高権威としての社会的権力を逆手にとった狡猾なやり方で自衛隊を「政治利用」しようする憲法学者と、大差ない。

自衛隊に対する日本社会における評価は非常に高い。東日本大震災における献身的な姿勢などもあり、日本社会において圧倒的な尊厳を持つ組織体になっていると感じる。私自身も、平和構築関連の調査・会議・研修・講演等の様々な機会にお付き合いをさせていただいており、素朴な尊敬の念は持っている。彼らは、社会的尊重を受けるべき人々である。

だが、だからこそ、自衛隊員の「政治利用」には、敏感になりたい。大臣なら「政治利用」していいというものではなく、憲法学者なら「政治利用」していいというものでもない。

自衛隊員の「主たる任務」は、「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛すること」(自衛隊法第三条)だ。自衛隊員を尊重するということは、彼らがこの「任務」が重要な任務であると信じ、危険を顧みず、その任務の遂行にあたる準備を日々整えている人々だ、という事実を尊重するということだ。

自衛隊法は、その他、周辺地域における「我が国の平和及び安全の確保に資する活動」や「国際社会の平和及び安全の維持に資する活動」を、「任務」として掲げている。要請にもとづく「災害派遣」も可能としている。 私は、自衛隊員を尊重することとは、これらの任務を遂行する専門人として尊重することだ、と思っている。余計な修辞や浅薄な感情論は、一切いらない。任務を信じ、任務を的確に遂行する「プロ」として尊重することが、自衛隊員を尊重することだ、と思っている。

自民党に票を入れるかどうか、憲法学者を支持するかどうか、そんな低次元なことは、どうでもいい。彼らが「任務」を遂行する「プロ」であるという事実の尊重が、彼らへの尊敬の根源であるべきだ。

僭越ながら、私は、学者として、尊重されたい。プロの学者として、自分自身の社会的価値を認められたい。私が、どの政党に票を入れるか、護憲派であるかどうか、そんなことで評価されたくない。だから、自衛隊も、そのように尊重したい。

南スーダンPKO派遣時には「自衛隊員が可哀そうだ」といった無数の勝手連自衛隊員代弁者が生まれた。「私は自衛隊員だ」のような悪質ななりすましとしか思えないような言説が、無数にとびかっていた。私の個人ブログですら、「(自称)自衛隊員」なる人物から、「私は自衛隊員です、あなたの言説を否定します」、のような匿名投稿コメントを受けたことがある。

改憲議論が沸騰するにつれて、さらにまた「私こそが自衛隊の気持ちを代弁している者だ」「何だと、俺こそが自衛隊の尊厳を守ろうとしている者だ」「私は自衛隊員(なりすまし)だ、お前は黙れ」、といった言説が、さらにいっそう数多く飛び交っていくことは、必至である。大臣も、憲法学者も、右翼も左翼も、入り乱れて、「我こそが真正な自衛隊員代弁者(なりすまし者)だ」、という言説が、あふれかえっていくのだ。

私自身は、そのような事態を想像するだけで、気分が悪くなる。

自衛隊を尊重する、とは、どういうことか。任務を遂行するプロとして尊重するということだ。勝手に自衛隊員を政治利用してはいけない、ということだ。 改憲議論の行方がどのようなものであろうとも、発言者は、勝手に自衛隊を政治利用することなく、自分自身の言葉、思想、責任で、語っていくべきだ。

今後も、自衛隊員「なりすまし」ご都合主義者の言説には、気を付けていきたい。


編集部より:このブログは篠田英朗・東京外国語大学教授の公式ブログ『「平和構築」を専門にする国際政治学者』2017年6月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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