「小池王国」の重大な危険:代表辞任は都民への裏切り

郷原 信郎

昨日の東京都議会議員選挙、安倍晋三首相が率いる自民党が、議席を半数以下に減らすという“歴史的惨敗”を喫した。その最大の原因は、安倍内閣の、加計学園問題、森友学園問題など安倍首相自身に関わる問題や、稲田防衛大臣の発言などの閣僚・党幹部の「不祥事」に対する対応が、あまりに不誠実かつ傲慢で、問題を真摯に受け止めているようには思えないことにあり、それに対する都民の痛烈な批判が、このような結果につながったと見るべきである。この選挙結果を、小池都知事が率いる都民ファーストの会(以下、「都民ファースト」)が支持された圧勝と見るのは、間違いだと思う。

私は、小池都政に対しては、昨年来、【小池都知事「豊洲市場問題対応」をコンプライアンス的に考える】【「小池劇場」で演じられる「コンプライアンス都政」の危うさ】【「拙速で無理な懲戒処分」に表れた「小池劇場」の“行き詰まり”】【豊洲市場問題、混乱収拾の唯一の方法は、小池知事の“謝罪と説明”】【「小池劇場」の”暴走”が招く「地方自治の危機」】などで、徹底的に批判を続けてきた。小池知事が東京都で強大な権力を握り続けることは「地方自治の危機」だと思っている。

一方で、森友学園問題、加計学園問題などで厳しい批判にさらされている自民党や安倍内閣に対しても、ブログ等で、様々な観点から批判を続けてきた。最近では、講演での獣医学部認可の『全国展開』の発言については、【「獣医学部を全国で認可」発言で“自爆”した安倍首相】と厳しく批判した。

そういう状況で行われた今回の選挙が、「小池氏と自民党との対決」だけでなく、「厳しい批判を浴びる安倍内閣の信任を問う選挙」と位置付けられたことで、小池都政、安倍政権の双方を厳しく批判してきた私としては、対応が極めて難しい選挙になってしまった。

選挙の告示直前の6月22日に、片山善博氏と私の対談本【『偽りの都民ファースト』】が出版された。私は、これまで本を出した時には行ってきたのだが、今回は選挙期間中、ツイッター、ブログ等での本の紹介を全く行わなかった。私の小池都知事批判が、些かなりとも自民党・安倍政権を利する結果になることは絶対に避けたかったからだ。

私が投票した選挙区も、自民党、都民ファーストの会、共産党の各公認候補者のほか、民進党を離党して都民ファーストの推薦を受けている無所属の候補者、あとは幸福実現党だけだった。昔、豊洲市場問題に関して教条的な批判で混乱を煽った共産党に投票するのか。しかし、まさか、幸福実現党というわけにもいかない。結局のところ、今回の選挙では、私には、全く選択肢がなかった。

多くの都民にとっては、私のように「全く選択肢がない」のではなく、「都民ファースト以外に選択肢がない」ということだったのであろう。

「小池劇場」を巧みに使った小池氏のメッキが徐々に剥がれ、支持は確実に低下していたとは言え、それは主として、豊洲への市場移転の問題での、「決められない知事」という批判によるものだった。その点は、都議選告示の直前に、豊洲への移転の方針を一応示したことで、相当程度に緩和された。そうであれば、あまりに酷い有様の自民党・安倍内閣への失望・反発から、「自民党には投票したくない」という当然の感覚の都民が、小池氏の都民ファーストに投票するのは、ある意味では自然な流れだったと言えよう。

片山氏と私の対談本で指摘したような、小池氏の都知事としての姿勢や手法に対する根本的な問題が都民に認識されていれば、結果も異なったであろうが、上記のブログで小池氏を徹底批判してきた私ですら、安倍政権批判との関係での上記のような理由で、対談本を紹介することもなく、都議選に影響を及ぼすような形での小池批判も、差し控えていたのである。今回の選挙で小池批判の動きが顕在化しなかったのは致し方ないと言えよう。

そういう意味では、今回の選挙での“自民党の歴史的惨敗”は安倍一強の異常な政治情勢に大きな動揺を与えるものとしては歓迎すべきことであるが、その副産物として東京都が「小池王国」となってしまったこと、都議会をも掌握した都知事が絶対的権力を握って、二元代表制が有名無実化しかねない状況になってしまったことは、我々都民にとって由々しき事態である。「小池都政の暴走」が始まると、もはや止めようがないのである。

そういう意味では、今こそ、片山氏との対談本【『偽りの都民ファースト』】に注目して頂きたい。片山氏は、地方自治体の政治・行政の観点から、そして、私が、組織のコンプライアンスの観点から、小池氏が都知事として行ってきたことが、まさに「偽り」であり、全くデタラメであることを、徹底して論じている。

小池氏は、事あるごとに「東京大改革の一丁目一番地は情報公開」という言葉を持ち出し、情報公開による「透明化」であらゆる問題が解決できるかのように言っている。しかし、小池氏の透明性の確保、すなわち、「情報公開の徹底」が、過去の知事に対して説明責任を厳しく要求するだけで、自分には甘い「ダブルスタンダード」になっていること、予算の決定の過程の業界団体のヒアリングなども、自分の都合の良いところを世の中に見せようとする「見せる化」であって、本当の意味の「見える化」にはなっていないことを、対談の中で、片山氏が厳しく指摘している(同書169頁)。情報公開は、過去の知事時代のことではなく、小池都知事になってからの、しかも、小池氏自身に関わる問題についても徹底されなければならない。しかし、実質的に東京都政を支配している小池氏と「顧問団」や都民ファースト幹部との協議過程や「密談」についての透明化・情報公開の動きは全く見えない。

この1~2時間程度で読める短い本が、少しでも多くの都民に読まれることが、「小池王国」となった東京都で今後起き得ることへの危機感を持ってもらうことにつながるはずである。

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上記の内容でブログを更新しようとしていたところ、「小池都知事、都民ファーストの会代表辞任」との信じ難いニュースが飛び込んできた。選挙直前に代表に就任し、代表として選挙戦に臨み、その結果が出たとたんに、代表を辞任するというのである。都議選向けの「臨時代表」だったということであろうか。選挙で圧勝した小池氏には、「小池百合子代表」の看板を掲げ、小池氏の責任で公認・推薦した都民ファースト候補者だからこそ、有権者が投票してくれたという認識すらなくなっているようだ。あまりに都民・有権者を舐めきった行動と言わざるを得ない。

小池氏は、今回の代表辞任の理由について、「二元代表制等々への懸念があることも想定すると」と述べているようだが、代表に就任した6月1日の定例会見では、小池氏は、

知事と、それから都議会と、二元代表制のもとにあって、しっかりと方向性を一にし、そしてスピード感を一にし、時には議会の方がむしろリードするぐらいのスピード感を持ってほしいという意味でございまして

と述べていた。「二元代表制」との関係からの懸念は最初から指摘されていた話であるが、それに対して

議会のチェックも、情報公開をすることによって、都民の皆さんの目ということがあって初めてその効果が出てくるのではないか

などと、ここでも「情報公開」という的外れの言葉を持ち出してごまかしていたのである。

今回、改めて「二元代表制」を代表辞任の理由として持ち出しているが、代表を辞任をしても、都民ファーストは小池氏が実質的に支配している政党であることは何も変わりはなく、ただ、「所属議員に何か問題があっても小池氏は責任を負わない」という点に違いがあるだけなのであるから、「二元代表制との関係での懸念」は全く解消されていない。

小池氏が代表として責任を持つ都民ファーストが公認・推薦した候補者というのと、野田数という多くの都民にとって正体不明の人物が代表となっている地域政党が公認・推薦した候補者というのとでは、有権者たる都民にとって判断が異なって然るべきである。選挙後に代表を辞任する予定であったのに、敢えて、その事実を秘し、選挙後も自らが代表を務める都民ファーストの公認候補ないし推薦候補であるように偽っていたとすると、その「公認・推薦」というのは、実質的には事実ではなかったに等しい。「候補者に対する人・政党その他の団体の推薦・支持に関し虚偽の事項を公にする行為」を「虚偽事項公表罪」として罰する公職選挙法235条の趣旨にも反すると言えよう。

このような都知事の下での東京都政が、法律に基づいて適切に運営されることは、全く期待できない。そのことを、今、改めて痛感している。


編集部より:このブログは「郷原信郎が斬る」2017年7月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、こちらをご覧ください。