蓮舫氏への質問意図と、引き出せた新たな政治的争点

新田 哲史

きのう(7月18日)の蓮舫氏の記者会見で、彼女がアゴラから要求していた3点セット、すなわち戸籍謄本、台湾籍の離脱証明書、台湾時代のパスポートを含め、手続き中の申請書も含めた書類を全面的に開示したのは、正直想定外のことだった。その中身の妥当性については池田信夫が疑義を呈しているが、その検証は今後にするとして、本稿では会見に出席した者として、質問に込めた意図、そして彼女のコメントから見えてきた問題点について整理しておきたい。

開示資料については、昼過ぎに大串政調会長が出席した事前レクで、蓮舫氏の会見以降の解禁を条件に出席者に配布された。想定問答については、前日までに池田信夫、八幡和郎さんと検討は重ねていたが、一度、アゴラのオフィスに戻り、改めて開示資料を分析。質問が一度しか指名されない可能性も踏まえ、ポイントを絞り込んだ。政治家と国籍の関係性は、同席した左派メディアが人権問題等に論点をずらしていくことが予想されたため、アゴラ編集部としてもっとも重大に見ている経歴詐称の問題を第一に練った。

迎えた本番。5人ほどの記者たちの質問のあと、ようやく私が指名された。ここで私は事前に用意した隠し球を手に最初の質問に入った。(書き起こし部分は自力でしたかったのだが体調がすぐれず断念。恐縮ながら産経ニュースからの引用をベースに一部加筆させていただきます)

(新田)昨年10月7日に国籍選択宣言をしたということは、二重国籍の状態でその時期までいたということになる。2004(平成16)年の選挙公報には『台湾籍から帰化』と、結果として事実と異なる経歴を表示していた。そのことに対する政治責任は。

産経の記事では、あっさりまとめられているが、Vlogでご覧いただくとわかるように、選挙公報のコピーを私は手にかざしている。蓮舫氏の回答。

(蓮舫)「国籍法に関しては、手続きを怠っていたのは事実だが、故意に怠っていたわけではない。17歳の時に日本国籍を取得してからずっと台湾籍が放棄したものだと思っていた。思ったままだった。その中で2004年から政治家をさせていただいたときに公報に書かせていただいた部分は、台湾から日本人になったという部分で、日本国籍取得を『帰化』として使わせていただいたという認識で、それ以上深いものではなかったと思っている。そこに故意性はないとご理解いただければ」

オーストラリアの事例を問いかけたかった理由

この質疑のとき、私は念押しで、こだわりの質問をしていた。蓮舫氏にとっては「よりによってこのタイミングで」と歯がゆい思いであったろうが、オーストラリアで先週に続き、またも二重国籍の議員が辞意を表明するというニュースが飛び込んできた(朝日新聞もやっと報じた)。政治家のコンプライアンス意識の違いを問いかける事例でありながら、時事通信以外の日本のメディアは先日は報じておらず、今回も報道されない恐れがあったので、何が何でも蓮舫氏に問いかけたかった。

(新田)オーストラリアでは二重国籍が発覚した議員が辞職を表明した。議員報酬返上の検討もある。なんらかの政治責任をとるべきではないのか?

蓮舫氏の回答。

(蓮舫)「オーストラリアの件に関しては憲法違反だったと思うので、その法的評価は私にはちょっとわかりません」

ずいぶんとあっさりしたものだった。「国情の違い」を理由にかわすと思ったので、ほぼ想定通りの淡白な反応。ただ、結局、この日の会見でオーストラリアに言及したのは私だけ。私がいなければ、話題に全くならなかったかもしれない。

また、前述の質問ともども、彼女自身の政治家と国籍を取り巻く遵法意識を浮き彫りにするのが目的だった点でいえば、「故意性はない」に集約している。オーストラリアの辞職した2人も過失犯だったが、書類を出しただけで、手仕舞いにしようとしているかのような蓮舫氏の不誠実さを感じた者も多かったはずだ。

代表辞任、議員辞職はおろか、議員報酬返上すらしない。なんらの政治責任を取っていない。東京選挙区の有権者に3度、事実と異なる経歴を提示していたことへの反省は、うわべにしか見えなかった。

「ごめんなさい」で済むのか?

さて、恥ずかしながら、複数回の指名されるチャンスがあるとは思っていなかったので、事前に台詞の言い回しも含めて、中身を固めていたのはこの一問だけ。ただ、意外に一人の取材者が2、3回手を上げては発言する機会があった。その成り行きを見守りながら、私は、最初の質問への回答に対し、過失犯を強調するばかりで、行動を伴わない蓮舫氏にだんだん苛立ちを覚え始めていた。何度か手を上げ、ようやく指名された。2度目の質問。

(新田)過失とはいえ一定の責任がある。結果的に違反してしまったことへの見解は。

蓮舫氏の回答。

(蓮舫)「公職にある者として反省している。やっぱり思い込んでいた。それが事実と違った。その解消に向けての最善の(対応をしようと)最速で努力してきた。それに関する資料は今回お示しした通りだ。これに関しては、やはりもう深く反省するしかない」

えっ、深く反省するしかない?……“ごめんなさいで済めば警察はいらない”的なフレーズが脳裏をよぎる。政治家の関わり合いの深い公選法では「うっかり違反」もたまにあり、候補者や陣営関係者が摘発されることも珍しくないが、「過失犯だから説明をするだけで許してもらえる」と、いう思惑が見え見えで、あらためて不誠実さを確認した。

私が冷静さを装った質問が思わぬ収穫

ただ、怒っている場合ではない。私は、ここで冷静さを装って、あえて党の代表である蓮舫氏に、政策的見地からの質問をぶつけてみた。

(新田)先ほども触れられていたが、民主党は2009年の政策インデックスに国籍法改正による多重国籍容認を盛り込んでいる。自民党もかつて河野太郎さんらが、公職を除き二重国籍を容認する案も考えていたが、臨時国会での法案、あるいは次期衆院選で公約として掲げる考えはあるのか?

蓮舫氏の回答。産経新聞さんは非常によく拾っているので、引用させていただく。

(蓮舫)「後段の部分においては、2009年の、民主党時代の話であって、民進党ではまだ議論もしていない。党首である私が今こういう部分で皆さまのお手を煩わせて取材にも来ていただいている。このことがある意味、いろいろとこれから広がると思う。実際に2つ、あるいは3つの国籍を持っておられる、例えば日本の国籍法でどちらかの国籍を選択をしろ(という規定は)、あたかも自由のように思えるが、他方で日本以外の籍、日本以外の国で国籍を抜けることができない制度になっている国もある。わが国の法律でいうと、日本国籍を選択できないという逆の強要を迫る法律という立て付けにもなっていると思うので、このことについて真剣に議論を始めたいと思う」

(蓮舫)「もちろん、始めることによって逆の意見もおありだと思う。多様性といいながら国会議員は重国籍はだめだという判断をしておられる方もおられるかもしれない。ただ私はそうではなくて、いろんな方が多様性を持ってわが国の共生社会をどうやって実現していくことができるか、そのための戸籍法、国籍法はどうあるべきか、これはぜひ考えさせて議論させていただいて形にしたいと思う。時間軸については『いつまで』というのはなかなか今示すのが難しいが、必ずやらせていただきたいと思っている」(注・下線部は筆者

動画では一目瞭然だが、最後のくだり「必ずやらせていただきたい」という彼女の言葉は実に力強かった。そして、この回答については、私が想定していたよりは踏み込んだものだった。下線部を引いたところが、まさに「収穫」だったが、将来的に国籍法が改正されて重国籍者を認める場合、国会議員については、彼女はどちらかといえば、制限を設けないほうがいいとの意識を垣間見ることができる。

もちろん仮に民進党が、国籍法改正案を出す際に、その通りになるのか、それとも2008年の自民党河野私案のように公職は対象外とするのか、そこは党内議論の行方もあろうが、現時点での党首としての思いを推定させるだけの意味づけはあったと思う。これによって、自民党や維新との政策観の違いを浮き彫りになる。私としてはこの日、数少ない収穫だったと思う。

安積氏の鋭い追及、大江アナの執拗な質問に蓮舫氏は?

なお、最後に反省。おそらく新聞やテレビの記者は尋ねない、しかし蓮舫氏の二重国籍が過失犯だったのか確信犯だったのかを問うネタとして、あのことはもっと綿密に準備しておくべきだった。もちろん私自身も二重国籍は本で書いたくらいなので、ある程度、即興ではいえるが、私の代わりに安積明子さんがたたみかけてくれた。

(安積)政治家になる前、タレントとしての活動に台湾のアイデンティティーを個性として使っていた。週刊現代で『父は台湾で私は二重国籍なんです』、朝日新聞で『在日の中国国籍の者としてアジアからの視点にこだわりたい』、雑誌クレアでは『私の国籍は台湾なんですが』と発言している。これらの記録は先ほどの説明と矛盾するが

さて、蓮舫氏、どうする?

(蓮舫)「タレント時代の私が事実の確認や認識、あるいは法的評価を混同して、いくつか今お示ししていただいたように発言していた。今振り返ると、ずいぶん浅はかな発言だったと思っている」

「中国や香港、台湾、アジアの問題と日本をつなぐジャーナリストの役割を果たしたいという部分は、これは自分のルーツをもとに際立たせていたこともある。その部分で、ハーフという部分、ダブルという部分を強調したことが、結果として今、法的な評価、あるいは事実関係を含めて齟齬が生じているのは本当に申し訳ない。当時の発言が軽かった」

タレント時代の発言をごまかしていた時点からすれば、蓮舫氏は詫びたように見えるが、しかし、それでも確信犯だった疑いは拭えていない。安積さんには、この日の記者たちでMVPをさしあげたい。

テレビ東京より

そして最後に。敢闘賞をさしあげたかったのは、テレ東の大江アナ。経済ニュースを読む穏やかな口調でいて、何度も執拗に「代表を続けていく意思に変わりはないのか?」と、ゆさぶる。古典的な手法ではあるが、これはボディーブローのように効く。

最後の大江アナの質問への蓮舫氏の回答。

(蓮舫)「きょうは、ごめんなさい。国籍の話で説明させてください」

蓮舫氏もたまらず打ち切った印象だった。センシティブな質問を80分も受け続けたことで、やはりやつれたようにも見えたが、この日の会見は、果たして党として、反転攻勢の転機とできるのだろうか。

Vlogを未見の方は、本稿で提起した内容を踏まえると、より立体的に見えてくることもあるだろう。

一応参考図書で拙著も。

蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた? - 初の女性首相候補、ネット世論で分かれた明暗 - (ワニブックスPLUS新書)
新田 哲史
ワニブックス
2016-12-08