日本は核武装できるのか:『日米同盟のリアリズム』

2017年07月26日 20:30
日米同盟のリアリズム (文春新書)
小川 和久
文藝春秋
★★★★☆


朝鮮半島の危機は日常化して感覚が麻痺しているが、日米韓の「第2次朝鮮戦争」のシミュレーションは何度も行なわれている。1994年に北朝鮮が核武装の意思を表明したとき、クリントン米大統領が爆撃する一歩手前まで行ったという。そのとき韓国の金泳三大統領は「ソウルを火の海にする」という北の脅しに屈して爆撃を止めたが、そのとき爆撃しておけば今の危機はなかったかもしれない。

本書の推定では、北朝鮮はすでに核弾頭を搭載した準中距離弾道ミサイル(射程距離1000~3000km)を保有している確率が高く、その射程には日本も入っている。これを迎撃して撃ち落とすことは技術的に不可能で、自衛隊は反撃できない(憲法で禁じられている)ので、単独で日本は防衛できない。

韓国に駐留する「国連軍」の攻撃は多国間の合意が必要で、即応能力に疑問があるので、日本の頼りは在日米軍しかない。したがって自衛隊と在日米軍は不可分である。沖縄から米軍を撤退させて代わりに自衛隊が守るということは、少なくとも今の憲法では不可能だ。米軍を支援する集団的自衛権は、日本の安全にとっても不可欠である。

では憲法を改正したら、米軍基地を撤去して「自主防衛」は可能だろうか。このためには、中国も北朝鮮も核兵器をもっている以上、日本も核武装するしかない。日本には原爆5000発分のプルトニウムがあり、原子力技術もあるので、3年もあれば弾道ミサイルをつくれるが、これは核拡散防止条約(NPT)違反である。もちろんアメリカは反対するので、日米同盟は解消しなければならない。

日米同盟なしでNPTを脱退して核武装することは、政治的には不可能である(今より軍事的リスクが大きくなる)。この意味でも自衛隊と日米同盟は不可分で、在日米軍基地はその一部である。残念ながら日本が自主防衛する道は、憲法を改正してもしなくても断たれているのだ。これが池田勇人以降の内閣が、本気で憲法を改正しなかった理由である。

ではアメリカ側から日米同盟を解消したらどうなるだろうか。これについて著者は、そういう可能性はないという。在日米軍基地はアメリカの世界戦略のもっとも重要な拠点であり、それを失うとアメリカは東半球の80%に出撃する能力を失い、世界最大の超大国としての地位を失う。その権力の空白には、中国やロシアが入ってくるだろう。

したがって日本人の懸念とは違って、日米安保条約は双務的である。米軍基地はアメリカの出先ではなく「本社機能」であり、日本は地位協定で基地を提供し、「思いやり予算」でその駐留費用の大部分を負担しているだけでなく、アメリカの世界のリーダーとしての地位を守る同盟国なのだ。

問題は日米同盟に挑戦する中国の脅威だが、今のところ日米同盟の優位はゆるがないという。しかし北朝鮮は中国のコントロールを離れて暴発するおそれがあり、そのとき中国は北朝鮮を支配しようとするだろう。ソウルが火の海になることは、いずれにしても避けられないが、日本に戦火が及ばないためには日米韓の軍事協力を緊密にするしかない。安保法制は、その第一歩にすぎないのだ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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