「躍進するコンテンツ、淘汰されるメディア」

2017年08月10日 11:30

角川歴彦さん著「躍進するコンテンツ、淘汰されるメディア」。
Apple、Google、Amazon、そしてNetflixを軸とする米メディア大再編と、通信・放送融合から地デジに至る日本の構造変化と限界。ぼくの名前も登場する、ドキドキする本です。読み解いてみます。
(→はぼくのコメントです。)

●2012年、Googleがスマホ、PC、TV、タブレットの4スクリーン戦略を立てた話が導入部にあります。

→ぼくはタブレットよりサイネージがピースたるべきと考えます。
スマホ(屋外・プル)、PC(屋内・プル)、TV(屋内・プッシュ)、サイネージ(屋外・プッシュ)だからです。
メディア戦略を立てる上での分類法が間違っていたんじゃないかなぁGoogleは。

●2006年1月ラスベガスのCESでGoole、Apple、MS、Amazonのギャング4が配信を宣言したという記述。

→ぼくもそれが配信の世界化と通信放送融合の号砲だったと見ます。
日本は当時ライブドア-フジサンケイ、楽天-TBSの攻防直後で動きが止み、NHKオンデマンドでテレビ番組の配信がスタートするまでに3年かかりました。この3年は大きかった。

●AT&Tとタイム・ワーナーの合併に対し、NTTがエスタブリッシュの地位を占める日本では、そうしたダイナミックな動きが見られないという指摘。

→逆に言えば、NTTは今後もキープレイヤーになります。その動きによって、構図は大きく変わるでしょう。

●1985年のNTT法が強い規制色を持つことも説いています。

→実はNTTは縛られていることの旨味も知りつつ、うまく王者として君臨しています。
しかし150年続いた電話網がAll IPに移行する中、自身が変わるべきことも承知しています。
NTT法撤廃はいつ来るのか。その時の姿はどうなる。通信政策の最終課題と考えます。

●1996年、孫正義さんがマードックとテレ朝に出資した話。

→当時、孫さんをぼくが初めて郵政省の幹部に引き合わせました。
その際、役所側からハッパをかけられ、孫さんが目を白黒させたことがありました。
結局、孫さんはTVを捨てネットにのめり込みました。
ホリエモンや三木谷さんがTVを攻める10年前のことです。

その頃のことを書いたぼくの2000年1月の証言です。怒涛の日々でした。
「前略、高田昭義様」
http://www.ichiya.org/jpn/column/newmedia/12.html

●1994年、江川晃正放送行政局長によるテレビのデジタル化爆弾発言。
以後16年の地デジ化は総務省の長期戦略。

→マルチメディア時代、最後のタブーを破る官僚の発言でした。
アナログの岩盤を破るのはデジタル技術という必然であり、早晩そうなる。
戦略というより、乗らざるを得なかったのです。

●通信・放送融合などのタブーについてぼくの証言も使われています。

→通信・放送融合も地デジも岩盤だった、あのころ。
「追悼 マルチメディアと浜野保樹さん」
http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2014/01/blog-post_6.html

●総務省+NTT+NHKが光ファイバーやモバイルなどの整備に果たした役割はほめられるべきで、日本のイノベーションは官主導だという認識。

→確かに官はインフラと基盤技術は得意です。
上位レイヤが不得手です。
ただ、任天堂やソニーのように世界を制したものもある。
やれなくはありません。

●総務省の3局は通信・放送融合に適合する態勢という視点。

→郵政省から総務省に移行させるのがぼくの現役最後の仕事でした。
しかし通信・放送・政策の3局が総務省では2局に減りました。
基盤・流通・政策の横割り3局に直したのは菅総務大臣です。

●2006年のいわゆる竹中懇・松原懇は所期の成果を残せなかったという評。

→懇談会はNTTやNHKの規制も扱いましたが、本質は融合推進でした。
結果、10本以上あった通信・放送タテ割りの法律を横割り4本まで減らし大幅に規制緩和。世界先端の制度になりました。
それをまだ民間が活かせていない、ということです。

●2013年、パナソニックVIERAのネット表示TVに放送局が反発しCMを拒否した。
2015年Netflixが上陸した際にはパナソニック、東芝、ソニーがTV局の了解を求めずリモコンにNetflixボタンをつけた。

→地殻変動を体感させる事件です。

●放送業界にも動画配信の動きが現れた。
NTV+IIJ、NHKの取組と並び、関西のTV局が集まる「大阪ちゃんねる」にも注目。

→吉本興業とNTTぷららがTV局のプラットフォームを提供している点が重要です。
この分野は東京より大阪のほうが暴れやすい。radikoの立ち上げと同様の構図です。

●リオはオリンピック年として初めてTVが売れず前年割れを見せた。
2020年はピークアウトか。
4K8K、3D、VR+4スクリーンとパブリックビューイングが進む。

→2020は、映像が茶の間からスマホファーストとパブリックビューイングに移行する。
それをチャンスとみるか、ピンチとみるか。

●知財を持つ側よりブランド、ネットワーク、プラットフォームを持つ側が勝つという伊藤穰一さんの見方。

→ゲームのモデルが変わったということですね。
著作権を守るほど市場が遠ざかる、というケースもある。
それを踏まえてゲームに参加しませんと。

85年の通信自由化、90年代のマルチメディアブーム、2000年代の通信・放送融合、2010年代の4スクリーン。
そして2020年を迎えます。
大きな断層を重ねながら、陸続きのメディア変動の歴史でした。
技術があり、ビジネス戦略があり、政策があって、今があります。

本書が映し出すポイントはいずれもぼくが重要局面と考えているもので、史観を共有します。
ではアクションとして何をするのか。
角川さんはまだパリパリの現役で、前進を続けています。

ぼくも手を打ち続けたいです。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年8月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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