シェアリングサービスはどうなるの?

中村 伊知哉

先日、NHKからシェアリングサービスの取材を受けました。
オンエアされた部分はちょびっとなので、当日答えたことを書き出しておきます。

Q1 シェアリングサービス普及・拡大の背景は?

若者のライフスタイルの変化と、ITの普及、この2点です。

10~20代の世代は経済成長を知りません。
モノを買うこと、所有することへの欲求、それによる差別化への欲求は低く、コストをかけずみんなで盛り上がることが得意です。
欲しいときに欲しいものをちょっとだけみんなで。

そんなライフスタイルをスマホとソーシャルメディアが実現します。
人の持ちものが手のひらで共有できて、その相手の評判もみんながソーシャルで共有する。
みんなが参加してみんなで楽しむインフラが整いました。

Q2 シェアリングサービスは産業を広げるか?

拡大が期待されます。
政府の白書では、世界の市場規模は2013年で150億ドル、2025年には3350億ドル。
国内市場は2014年度233億円、2018年度に462億円、という推計が紹介されています。

UberやAirbnbのように、クルマや家など「大きいモノ」のシェアが注目されています。
大きいモノの有効活用はわかりやすい。
それはタクシーやホテルなどプロの仕事を奪う面もあるが、すき間を埋める新事業を産む面の方が大きいでしょう。

ただ、どのサービスが定着するかは地域の事情にもよります。
Uberが生まれたのは米西海岸の交通事情が悪くタクシーもつかまらないから。
日本の都市のような便利な場所では、求められるサービスも異なるでしょう。

例えば日本が抱える課題、介護などの高齢者対応や子育て支援などに強いニーズがあり、それに応える自治体サービスなどが考えられます。
シェアリングサービスは地域性が強く、それぞれのコミュニティに合ったサービスが開発されていくと思います。

シェアできるのはモノだけではありません。
ぼくはあまりモノを持っていませんが、時間を持っています。
これを提供することはできる。
時間や能力という、誰もが持っているものをうまくシェアできる仕組みができると、サービスが広がるんじゃないでしょうか。

Q3 課題は?

「不安」を解消することです。
政府の白書では、日本は諸外国と比較して利用意向が低い。
民泊は中国84%、米国55%、日本32%。自家用車は中国86%、米国54%、日本31%。
利用したくない理由として「事故やトラブル時の対応に不安がある」が特に多い。

これまで日本のサービスは「プロ」が提供し、その水準や安全性を法律などでお上が確保していたのに、シェアリングサービスは「アマチュア」が提供し、お上ではなく提供者と利用者の信頼と評判で成り立つ仕組み。
使う側が賢くならなければいけません。

「評判」を共有するシステムは、レストランの点数やネットオークションなどで馴染みになりました。
シェアリングサービスも同様に、みんなの評価が命綱になります。

Q4 規制や制度はどうなる?

これまでのようなプロを規制するタテ割りの「業法」ではなく、みんながいろんなサービスを生み、そして安心に使える仕組みが求められます。
政府は民間の主体性を重んじて官民連携で環境を整える「共同規制」を進める方針です。

民間が自主ルールを設け、それに従ってサービス内容や主体を「見える化」します。
その水準を認証する仕組みも民間主導で整えます。
政府はこれを手助けする、という仕組み。
従来の「これやっちゃダメ」的な「業法」とはスタンスがまるで違います。

そして政府は、よい取組を見せるサービスや自治体を推奨すると言っています。
叱ってへこますこれまでのやり方と違い、「ほめてのばす」行政です。
シェアリングはITがもたらした新しいサービス。
それを円滑に広げるのに適した手法です。

シェアリングサービスはITをベースにした新しい社会的な仕組みです。
不安もあればトラブルも生じます。
それが広がるには、みんなの「慣れ」が必要で、時間もかかる。

時間をかけて、みんなで育てよう、ということです。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年8月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。