茨城県知事選:安倍首相は笑い、朝日新聞は悲喜こもごも?

2017年08月28日 06:00

茨城県知事選で6期の現職を破った大井川和彦氏(NHKニュースより引用)

この原稿を書いているのは28日未明。茨城県知事選で、自公の推した新人、大井川和彦氏が、7選を目指した現職の橋本昌氏を破った速報直後なので、朝日新聞が本日の朝刊でどのような論評をしてくるのか、また後で注目したいが、NHKが当確を報じたのは午後9時19分ごろ。大河ドラマ放送中の当確速報が多い知事選にしては、結構もつれる展開を与党側が制した。安倍政権にとっては都議選後の逆風に歯止めをかけ、衆院補選への反転攻勢となる「橋頭堡」を築けたといえるだろうが、この間の選挙戦の報道を振り返ると、朝日新聞の上層部にとっては複雑な心境に違いない。

歴史的激戦も、情勢調査の精度は見事な朝日の選挙報道

朝日新聞にとって「好材料」だったのは、新聞業界随一との定評がある選挙調査能力をいかんなく発揮したことだ。保守分裂となった今回の知事選は、いわば県民党的に勢力を形成して中央に反抗しようとした現職の橋本陣営と、県出身の元経産官僚にしてIT企業幹部を歴任した大井川氏を推す与党側との総力戦となった。

すでに日刊ゲンダイが報じているが、中盤の情勢調査では、政党やメディアの情勢調査が「大井川リード」と「橋本リード」にくっきり分かれるほど熾烈な戦いだった。このうち、朝日新聞は投票前最後の情勢報道(21日朝刊)で「大井川氏がやや先行」と報道していた。 

自公推薦の新顔、やや先行 現職、激しく追う 茨城知事選・朝日新聞社情勢調査

「やや先行」という表現は、5〜10ポイント程度でリードしている状況を示唆しているというのが政界・メディア業界での「相場」だが、その後の両陣営の激闘で若干の情勢変動はあったにせよ、結果的には得票率で6.7ポイント差。投票前最後の情勢報道は、実質的な予測記事の性格があり、その点で朝日の情勢報道は「橋本リード」と読んだ他社と比べ、中盤の時点で精度を高く先を読んでいたともいえる。

情勢取材をしていた茨城総局の県政担当記者と、調査を担当した本社の世論調査部の記者は、現場レベルでの仕事はしっかりしたといえる。よくネット右翼から「朝日新聞は選挙の数字もいじるのか?」的なヤジが飛んでくるが、選挙報道ではいかに他社より早く正確に当確を報じることに血道をあげる。選挙取材の現場の記者は、どの社であろうと、シビアなリアリティーを見ていかなければならない。

「原発コンテクスト」にみる朝日の“一喜一憂”

これに対し、選挙前から本番中の世論形成や、選挙結果がもたらす政局展望に関しては、さまざまな思惑が入り得る領域だ。やりようによっては記事に“角度をつける”誘惑はつきまとう。すっかり反安倍に舵を切っている朝日新聞の上層部としては、もし自公が茨城県知事選を落とすことになれば、「都議選惨敗からの退潮止まらず」「トリプル補選前に政権に痛手」とでも書き立てるような論調を仕掛け、加計学園問題の続報追及との合わせ技で、野党と実質的に“共闘”して政局を作ることに寄与できただろう。

実際、この選挙期間中、朝日新聞が報じた「反安倍文脈の煽り記事」はこういったものがある。まず茨城県知事選の初日、橋本氏が原発再稼働反対の姿勢に踏み切ったことは、「背水の陣」を敷いた橋本氏のサプライズ的な選挙戦略であったにせよ、朝日新聞としては非常においしかったはずだ。すかさず見出しに「原発再稼働争点に」を盛り込んでいる。

茨城知事選、現新3氏立候補 保守分裂、原発再稼働争点に

さらに朝日新聞の過去記事をみていると、気づくことがある。茨城県知事選の1か月前で取り上げたこの記事だ。

(360゜)脱原発の旗、どこへ 鹿児島知事、自民との関係重視

就任1年を迎える三反園訓・鹿児島県知事が公約の脱原発の姿勢をトーンダウンさせていることを“追及”しているのだが、この記事では末文をこう締めている。

知事選で脱原発を掲げる候補者は決して多くない。来月に告示を控える茨城県知事選では、日本原子力発電・東海第二原発の再稼働の是非の判断が焦点の一つだが、保守系の2候補は立場を明確にしていない。

つまり、鹿児島をメインにした原発立地県の県政を取り上げ、脱原発の世論を煽ろうとする記事の中で、この7月下旬時点で茨城県知事選では脱原発が争点になっていないことに、社説で脱原発を推奨する朝日新聞としては「歯がゆさ」を感じているともいえる。だから、茨城県知事選の初日に橋本氏が再稼働反対を表明した時、朝日新聞の上層部は、欣喜雀躍するような気分だったに違いない。

自民党内の「反安倍」動向もつぶさに報道

そしてこの間、中央の自民党内で「反安倍」の動きがあるとつぶさにレポートすることも忘れていない。 

自民議員、安倍政権への苦言聴く会設立 首相発言にクギ

よく読むと入閣待機組のグチっているだけのようにも見えるが、その2日後(27日)には、反安倍の急先鋒になってしまった石破さんを持ち上げる、大阪ローカルの動きもすかさず報道する力の入れようだ。

大阪の自民地方議員が石破氏支援の会 維新と蜜月に反発

もちろん、当人たちも、そしてこれを報じた朝日新聞のほうも、茨城県知事選との関連はさほど意識していたとはいえまいが、しかし、もし大井川氏が負けていたら、これらも政権のネガティブ材料としてカウントされていたに違いない。

….とまあ、新刊『朝日新聞がなくなる日 – “反権力ごっこ”とフェイクニュース』の発売日に合わせて(きょう28日です!)、ちょっと強引ながら(苦笑)、朝日新聞の報道視点から茨城県知事選を振り返ってみました。まあ、朝日新聞さんにとっては、選挙分析は定評通りでお見事だったと思います。ただ、選挙結果については安倍政権を追い詰めることにつながらず「残念」でしょう。本稿が辛口で皮肉を込めたように見えるので、私の新刊も「朝日新聞憎し」ありきの右翼本のように思われそうですが、決してそうではなく、是々非々で論じております。

なお、9月から始めるソロ活動のオンラインサロン「ニュース裏読みラボ」でも、このように、時系列に報道を追いかけていきながら、点と点を結ぶ線のストーリーを分析し、世論がいかに作られていくのか、みなさんと討議し、日々の仕事に生かしていただく機会を作りたいと思います。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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