暴力団の銀行預金の全面排除は妥当か?

荘司 雅彦

暴力団構成員は、現在、銀行預金口座を開設することができません。
すべての銀行が、暴力団等の「反社会的勢力」との取引を拒絶しているからです。

暴力団構成員でないフリをして銀行預金口座を開設すると、詐欺罪で逮捕されます。
暴力団構成員であるにも関わらず、一般人であると欺罔して銀行から通帳やキャッシュカードを詐取したとして、刑法上の詐欺罪にあたるからです。

最近の最高裁判例によって、従来から存在した暴力団構成員等の銀行口座も(銀行側が一方的に)解約できるようになりました。

ということで、銀行としては暴力団とのつながりが消えて「めでたし、めでたし」なのでしょうが、社会全体の総コストを考えるといささか疑問が残ります。

そもそも、暴力団、特に幹部連中が銀行に預けているお金は「表のお金」に過ぎません。
マルサや税務署が調査しても何らホコリも出ない綺麗なお金です。

実際のアングラマネーは、現金(もしくは金のような現金代替物)で持っているか、一般人の名義を借りて分散して預金しているはずです。おそらく、現金等の比率がほとんどだと思います。銀行が利用できないのはとても不便ですが、死活問題になるほどではありません。

ここで、暴力団から民事的な被害を受けた会社から1000万円の損害賠償をしてもらいたいという依頼を弁護士が受けたと想定してみましょう。

従来であれば、暴力団組長の銀行預金があればそれを仮差押えをして、勝訴判決が確定したら預金から賠償金を取ることができました。

ところが、世の中から暴力団の銀行預金がなくなってしまうと、賠償金の引当になりそうなものは組長の自宅(組事務所になっていたりします)という不動産しか残りません。マトモな人であれば、暴力団員が出入りしている不動産を買うはずはないので、勝訴して競売にかけても買受人は現れず強制執行は空振りに終わってしまいます。

そういう意味では、民事事件の場合、銀行預金ほど確実な引当はないのです。罰金や行政罰、税務署等の徴収の引当としても極めて有効です。最悪の場合、取られるものがないのであれば、というモラルハザードが暴力団に生じる怖れも考えられます。

刑事事件であればすぐに逮捕されますが、純然たる民事事件であれば警察も手出しができません。民事事件の金銭的回収が不可能になれば、社会全体の総コストは急上昇します。

「角を矯めて牛を殺す」ではありませんが、もしも銀行を助けて社会全体の総コストが上昇するとしたら、とても困ったことです。私の杞憂に過ぎないことを祈るばかりです。

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荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年9月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。