企業の内部留保は世界中で増えている

松本 孝行

池田さんが内部留保のニュースについてコメントされたツイートです。このNHKのニュースだけでは情報不足なので、内部留保に関しての不足している情報を集めてみましたので、ご参考ください。

1:内部留保は世界共通で増えている

そもそもの話ですが、内部留保と言うのは日本だけで増えているわけではありません。企業貯蓄は世界各国で右肩上がりです。下記「平成27年度 年次経済財政報告」のグラフですが、アメリカもEUもすべて右肩上がりで増えています。

つまり日本だけで企業が内部留保を蓄積しているわけではなく、世界の流れというわけです。別に日本の企業がケチだからということでもありません。

2:日本は現金預金の割合が多い

次に日本の特徴として、内部留保の中でも現金預金が多いという特徴があります。下記同じく「平成27年度 年次経済財政報告」のグラフですが、現金預金の割合がアメリカ・EUに比べると多いことがわかります。

ただグラフを見てもらえればわかりますが、別に今になって現金預金の比率が増えたわけではありません。グラフでみても2000年からずっと多いですし、こちらの資「国立国会図書館 企業の内部留保をめぐる議論」によりますと、1995年の時点でも現金預金の比率は多いことがわかります。

3:賃金を上げる前に経済成長が必要

NHKのニュースは内部留保が増えているということですが、ニュース記事の最後の方に賃上げについて触れられています。つまり「企業は金を貯めてないで、労働者に配れ」ということを言いたいのではないか?と推察できます。

日本の労働者全員が1年に受け取る金額、雇用者報酬は2016年で約270兆円です。400兆円であればおよそ1年半くらいの給与を一時的に手にはできそうです。ですが企業の貯めているお金を労働者に吐き出させたとしても、それが貯蓄に回ってしまっては意味がありません。さらに一時的なものですから、何度も労働者に配れるものでもありません。

そこで賃金を上げる最適な方法というのが他にもあります。それが経済成長です。「データブック国際労働比較2017」を参考に、簡単なグラフを作ってみました。

見ていただければわかりますが、雇用者報酬は日本は2005年と比較して、ほとんど上がっていません。それに比べてドイツ・イギリス・アメリカなどは雇用者報酬が2005年に比べて30%以上伸びています。2005年に年収300万円だった人が、2015年には年収400万円程度まで上がっている計算になります。

そして下記は名目GDPのグラフです。

これを見ると一目瞭然ですが、日本は経済成長していません。2005年を基準とした場合、経済が大きくなっていないのです。対する他国はおよそ30~40%近い経済成長を成し遂げています。

つまり賃金を上げたいなら経済成長するしかないのです。非常にシンプルかつ誰もが当たり前だと思っていることだと思いますが、なぜか内部留保の話しになるとマスコミ各社は「経済成長よりも先に労働者に金をよこせ」という論調になるのは、どうしてなのでしょうか

国は企業に金を投資させるための施策を

内部留保は企業が投資をするためのものであり、かつ内部留保は世界で増えている状況です。「賃金を上げるために内部留保を使え!」という声がマスコミからは出ていますが、実際に雇用者報酬に大きく寄与するのは経済成長でしかありません。そして経済成長を促すためには企業が新たなビジネスにチャレンジし、消費者の需要を喚起していく必要があります。

マスコミの論調に乗ってか、政府も企業側に賃上げ要請をしているようでまるで第二の労働組合のような役回りをしています。国・政府がやるべきことはそのような賃上げ要請を企業にして回るのではなく、賃金が自然と上がっていくように経済成長させることが重要なのではないでしょうか。

かくいうマスコミもたくさん利益剰余金を積んでいるわけですから、ブーメランになるようなことは主張すべきではないのではないかと思いますが、いかがでしょうか。