米軍の「先制攻撃」はあるのか

池田 信夫

北朝鮮がICBM発射に続いて「水爆実験」をやり、さすがにガラパゴス平和主義の界隈も静かになったようだ。客観的にみて、東アジアでこれほど戦争のリスクが高まったのは、朝鮮戦争の終わった1953年以来だ。具体的なシナリオはいろいろあるが、1994年にクリントン政権が実際に検討したのは、寧辺にある核施設の爆撃だ(写真はGlobal Security)。

これについて韓国の『中央日報』によれば、2008年に金泳三元大統領が「私がクリントン大統領の寧辺爆撃計画を阻止していなければ、今ごろ韓半島は非核化されていた」と駐韓米国大使に打ち明けたという。これは米国務省の外交公電をウィキリークスが公開したものだ。

ペリー元国防長官の回顧録によると、アメリカは再処理施設を爆撃する準備を行い、在韓米軍が増員され、釜山港に戦時物資が到着した。しかし南北会談で「ソウルを火の海にする」という北朝鮮の脅しに屈して金大統領が爆撃中止を要請したため、アメリカは攻撃を断念した。当時は北の反撃で、ソウル市内で50万人が死亡すると推定された。今は100万人以上といわれるので、金大統領が後悔しているのはこの点だろう。

1994年2月に細川首相が訪米したとき、この爆撃計画がアメリカから明らかにされ、彼は「信じ難きことなり。われわれはみな極楽トンボなるか」と、日記『内訟録』に書いた。対米交渉にあたった石原信雄官房副長官は、アメリカの海上封鎖を日本が支援する方向で話を進めたが、内閣法制局が「機雷除去は憲法違反だ」と反対したため、日本の対応は決まらなかったという。

機雷除去は湾岸戦争のとき自衛隊がペルシャ湾でやったのに、日本海で憲法違反になるのは不可解だが、法制局によると「戦闘に巻き込まれる可能性のある海域での米艦船に対する協力は違憲の疑いがある」のだという。ペルシャ湾の機雷除去は、戦争の終結後だった。

このようにソウル市民を人質にとられているので、常識的には先制攻撃はありえないが、特殊部隊がピンポイントで金正恩をねらう「斬首作戦」の可能性はある。北朝鮮のミサイルが日本国内で爆発したら、ただちに米軍は反撃するだろう。その場合にソウルが火の海になることは避けられないが、日本がどうなるかは内閣と国会の対応次第だ。1994年には憲法問題で動きが取れなかったが、今度は大丈夫なのか。