世界的ブランドの革製品を委託生産:スペインの町「ウブリケ」

世界的ブランドの革製品を手がけるスペインの町、ウブリケ(BBC mundoより引用)

紀元前10世紀頃に地中海で交易から発展したフェニキア人がスペインのアンダルシア地方に建設した都市カディスから凡そ100㎞内陸に入ると、人口18,000人のウブリケ(Ubrique)という町がある。この町では18世紀から革製のバッグ、財布、宝石箱などが生産されている。今、この町では世界の有名ブランドLuis Vuitton、Gucci、Hermes、Chanel、Loewe、Carolina Herrera、Balmain、Nina Ricci、Christian Dior、Givenchy、Montblanc、Cartierなどが革製のバッグや財布などを委託生産している。

ウブリケでは有名ブランドから受注を受けたメーカーはそれを表立てることなく密かに生産しているという。模造品などが市場に現れないようにするためのそれが対策であるという。メーカーは有名ブランドと機密を守る契約をするそうだ。そして役員以下、全ての従業員が同様の契約をすることになっている。勿論、ブランド商品の写真やデザインを工場から外部に持ち出すことは厳禁となっている。

参照;BBC Mundo – Ubrique, el pequeño pueblo de España donde se fabrican bolsos de Gucci, Louis Vuitton y Chanel (pero no lo pueden decir)

昨年の輸出は30%の増加だという。一番の顧客はフランスとイタリア。輸出が好調で失業率も僅かに8%だという。ウブリケが所在するアンダルシア地方はスペインで失業率が最も高く、20%以上を記録しているのと比較すると、それは驚くべきことである。メーカーは100社近く存在しているが、その下請け工房などを加えると、この町の労働人口の半分が革製品づくりに携わっているという。

つい最近までスペインの不況、そして有名ブランドもコストダウンを狙ってアジアでの生産を増やし、ウブリケの工場への発注量を減らしていた。有名ブランドが向かった先は中国での生産であった。その影響でウブリケでも景気は後退し40社余りが廃業したという。生産量も6割減少したそうだ。その影響で雇用も喪失した。

しかし、有名ブランドのアジアでの生産は発注しても、その2倍の模造品が同じ委託工場の裏から市場に出されるという問題に出くわしていた。商品の品質管理も満足するものではなかった。特に、有名ブランドが恐れたのは模造品の急増であったという。

その一方で、ウブリケでは不況が続いていたが、18世紀からの親から息子へと秘伝から生まれた高い品質と、きめ細かなつくりを得意とした職人技は存在し続けていた。それは、伝統の無いアジアでは真似することは出来なかった。そして、遂に、それに気づいた有名ブランドがまたウブリケに戻って来たのである。

ウブリケ町役場の文化部長ホセ・マヌエル・フェルナンデスも「多くの職人は『自分たちの品質は優れている。お客はまた戻って来る』と確信して仕事を続けた」と「BBC Mundo」の取材にに答えた。

スペインで有名ブランド専門ショップLa Portegnaを経営するホセ・ウルティアはある知人からウブリケの職人技について紹介を受けて、早速現地でサンプルを作ってもらったそうだ。その時、彼らの伝統から育れた職人技の素晴らしさに驚かされたそうだ。

また、ウブリケを代表するブランドの一つEl Potroの営業部長ホルヘ・オリバ・ペレスは「BBC Mundo」の取材に「我が社の各製品は、革の裁断とデザイン以外は、いつも100%一人の職人によってつくられたものだ」と自負し、「職人の熟達さに頼ることが重要だ」と強調したそうだ。

同様に、ブランドRanchelのファン・アントニオ・サンチェス営業部長も「ひとつひとつの商品に職人技が表現されることをお客は望んでいる」と指摘し、生産効率を高める為の生産ラインを設けることに反対している。「そうすれば、生産コストを下げることが出来て、生産量も高まるが、それは我々にとって重要ではない」と力説した。彼は親から職人技を伝授されて40年以上この業界にいるという。彼にとって、他の職人と同様、その職人技をひとつひとつの製品で表現することが大事なのであるとしている。だから、「ひとつひとつの出来上がったものに同じものはない」と彼は強調している。

また、革製品企業連盟Empielのフアン・エンリケ・グティエレス委員長は「ウブリケでの取引の誠実さは保障する」と述べ、「隣国のフランス、イタリア、ドイツ、ポルトガルと比較して品質と価格のバランスにおいて我々が最も競争力がある」と力説している。

スペインの直接のライバルであるイタリアと同じ材料で同じ構造のものを生産するとした場合にスペインの方が品質そして価格においてイタリアよりも競争力のある製品ができあがることは多くの製造品において証明済みである。唯一、スペインがイタリアに劣るのは国のイメージである。Made in ItaliaとMade in Spainが消費者に与えるイメージではイタリア製の方が優れているような印象を与えるのである。

しかし、このスペイン製品の優秀さを証明している一つの具体例がイタリアの有名ブランドも頼りにしているウブリケの職人技である。