「AIで仕事が消える」という話はあちこちで耳にするけれども、具体的にどういう仕事がどういう具合に消えていくのかを具体的にイメージしている人は多くはないだろう。なんとなく、かつて90年代にITの普及で事務作業が効率化したごとくに、単純な作業から置き換えが進んでいくシーンをイメージしている人が少なくないはず。
そう言った人たちに、本書はなかなか衝撃的な現実を、しかも非常に分かりやすく説明してくれる。
本書では、AIを搭載したロボットの普及により「20年以内に日本では49%の仕事が消失する可能性がある」とするオックスフォード大の論文をベースに議論が進められる。※
以下は、印象に残ったポイントだ。
知的作業から先に置き換えられていく
ロボットの開発は「足・脳・腕・顔・手の指」の5要素がパラレルで進められているが、実際にはおそらく「足→脳→腕→顔→指」の順で開発が進んでいくことになる。囲碁で人類を打ち負かした囲碁AI「AlphaGo」を見ても明らかなように、脳は比較的簡単な方であり、ファンドマネージャーやトレーダー、パラリーガルや外来医師といった職業は実は真っ先に置き換えられる可能性が高い。
逆にもっとも開発難易度の高いのは繊細な指の動きで、そういう意味では最後まで確実に人類の仕事として残るのは繊細な指使いの要求されるパティシエや寿司職人だろう。ハンバーガーの厨房も、なんだかんだ言ってそこらのホワイトカラー職なんかよりはよっぽど長く残るはず。同じ理由で、長距離トラックやタクシーのドライバーは最短で置き換えられるだろうが、アポを取って荷物を抱えてマンションを上り下りする運送業は、しばらくは人間の職として残されるだろう。
科学者やクリエイターも危ない
なんとなく「科学者やクリエイターは才能の塊だから、最後まで人間様の仕事として安泰だろう」と多くの人が考えているのではないか(筆者もそうだった!)。でも、それは違う。アーティストとと呼ばれる人たちのほとんどは、過去の作品のインスパイアを蓄積した上で自らの作品を生み出しているものだ。科学者の多くも過去の論文を読破した上でその積み重ねの中から自らの論文を組み立てる。
そうした「過去のデータベースからの蓄積と分析」は、実はAIの最も得意な分野である。毎日世界の主要紙に目を通し、古今東西の論文をすべて記憶しているAIに、人間の学者は勝てるのだろうか。著者は2030年代以降、フィールズ賞やノーベル物理学賞といった賞はAIしか受賞できなくなる可能性もあるとする。
ただし、アーティストに関しては既に過半数のアーティストがプロデューサーの作った作品のイメージに合わせて選ばれているわけで、置き換えられるのはアーティストではなく秋元康の方かもしれない。先日、著者から聞いた話では、既に某アイドルグループの一部の曲はAIが作っているという!
余談だが、Jpopのヒット曲に一定の法則が見られるというのは既に一部の人から指摘されている事実だ。
“逆年功序列”が組織内に出現する
同じことはビジネスの現場でも起こる。基本的に過去のノウハウや集積したデータの判断という作業から置き換えが進むので、中間管理職ほど価値が無くなり足を使って現場で動く若手ほど価値が高くなる。なので、40代以降は常に失職危機や賃下げ圧力が加わることになる。
労働組合が反対するからそうはならないって?まあ反対するだろうけど、無慈悲にリストラする海外勢とガチンコで競争せねばならない以上、いくら連合が泣き叫ぼうがものすごい賃下げ圧力はかかるだろう。その場合、筆者の予想だと「形がい化した年功序列を維持するために20~30代の昇給がめちゃくちゃ抑制されて、しかも40歳過ぎで頭打ちになり、失業率低いけどまったく消費が振るわないジリジリ衰退する社会」が出現するんじゃないか。あ、でもそれってまさに今の日本のような……
1%に富が集中する
たとえ生き残る51%の側に回れたとしても、確実に中流層は没落する。付加価値の低い仕事しか与えられず、膨大な失業者の社会保障給付を負担せねばならないからだ。唯一豊かになれるのは、ロボットへの置き換えのメリットを享受できる大口の株主などの資産階級だけとなる。文字通り1%に富が集中する社会だ。富裕層のさらなる富裕化と中流層の衰退は先進国共通の現象であり、これまではグローバリゼーションの文脈で語られることが多かったが、20年後には「あれは実はロボットによる置き換えの端緒だった」と振り返られるようになるやもしれない。
恐らく、上位1%に重点的に課税して再分配を徹底する左派政権に期待する人もいるだろうが、著者によればそれも期待薄だという。なぜか。旧ソ連や中国を見ても明らかなように、強大な権力を握って平等な社会を実現しようとする政府は、必ず自由主義経済よりも腐敗し、深刻な格差大国になるからだ。要は1%の金持ちが肥え太るか、1%の独裁政権関係者が肥え太るのかの違いでしかない。
「ロボットに給料を払う」ことが鍵
そうしたディストピアをユートピアに変えるための処方箋はあるのか。本書の提言するのは「ロボットに給料を払うよう義務付けること」だ。広義のロボット税(ビル・ゲイツも提言している)のようなものだが、本書の場合はロボット利用権を国に帰属させた上で、利用料を国に支払い、それを全額、国民一人一人にBIのように分割支給するというものだ。
この政策には3つのメリットがある。まず、ロボットに給料を払わせることで、一方的な人からロボットへの置き換えに一定の歯止めをかけることができること。そして、本当にきつい仕事はロボットへ、そうでない仕事は人へと、住み分けによる労働環境の向上が図られること。最後に、ロボットの労働市場への参加で中流層の生活が下支えされることだ。
たとえば失業率が10%程度に上昇したとしても、社会から消えた仕事が3Kと呼ばれるようなキツイ仕事中心であり、中流層には一律で一人5万円ほどのBIが支給される社会を想像してみて欲しい。それはけして恐れるような未来ではないはず。
もちろん、既に導入されている産業用ロボットとの兼ね合いも別途考えねばならないし、世界で足並みをそろえて同じような法律を導入する必要もあるが、恐らくはこうした置き換えコストの導入こそが、人とロボットの共存していく唯一の道だろう。
※ただし、この論文は4年前のものであり、著者によるとAI技術の進化スピードを考慮すれば消える仕事の割合はさらに高まっている可能性があるという。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2017年9月4日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。