【映画評】ナインイレヴン 運命を分けた日

2001年9月11日、ワールドトレードセンターのエレベーターには、ウォール街で成功した実業家のジェフリーと離婚調停中の妻イヴ、バイクメッセンジャーのマイケル、恋人に別れを告げに来たティナ、そしてビルの保全技術者のエディの5人が居合わせる。だが突如、ビルに飛行機が激突し、エレベーターは北棟の38階辺りで停止。閉じ込められた5人は、外部との唯一の通信手段であるインターコムのオペレーターのメッツィーに励まされながら、なんとかエレベーターから脱出し生き延びる方法を探るが…。

2001年に起きたアメリカ同時多発テロ事件をビルの内部に閉じ込めらた人々の視点から描く社会派ドラマ「ナインイレヴン 運命を分けた日」。同時多発テロ下の実話から生まれた舞台『エレベーター』を映画化したものだ。様々な境遇の5人の男女は、狭い密室で互いのことを語り合い、人種や経済格差を超えて、ただ生き延びることだけを目標に力を合わせる。エレベーターの中は、そのままアメリカ社会の縮図になり、そこでなすべきことは何かと問いかけているかのようだ。

心が離れてしまったジェフリーとイヴの夫婦は互いに歩み寄り、不毛な恋愛を清算すると決めたティナは情緒不安定ながら初めて生きる意欲に燃える。マイケルやエディも、愛する家族のために、こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。恐怖と戦いながら葛藤する5人の心理ドラマとしては良くできている。だが映画は見るからに低予算だし、ほとんどがエレベーターの中の会話劇なので、やや緩慢な印象は否めない。それでも16年前の衝撃的な悲劇を、今、改めて描くのは、互いに助け合い、団結して危機を乗り越える人々の姿を見せることで、分断の危機に瀕した母国アメリカのあるべき姿を伝えたいからである。NY出身のキャスト、スタッフが多く結集しているが、中でも、ゴシップまみれのお騒がせ俳優チャーリー・シーンが久しぶりに好演しているのが見所だ。

【65点】
(原題「9/11」)
(アメリカ/マルティン・ギギ監督/チャーリー・シーン、ジーナ・ガーション、ウーピー・ゴールドバーグ、他)

(一致団結度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年9月12日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。