スエズ運河が拡張したのに期待外れで売上が伸びない

スエズ運河(Cycling Man/flickr:編集部)

1869年に開通したスエズ運河が拡張されて丁度2年になる。イギリスの管轄下にあったのを1956年にナセル大統領が国有化して以来、エジプトの外貨獲得の重要な財源となっている運河である。しかし、期待されていたような成果が出ず、通航料の売上が当初の予想を下回る状態が続いているという。

先ず、参考までに読者の方々に運河の通航料についてお知らせしたい。

2015年10月の経済紙『Expansión』が記事の中でスエズ運河の通航料としてコンテナー船<18000TEUの場合は70万ユーロ(9100万円)>と指摘している。TEUというのは20フィートコンテナーだけを積んだ場合に最大積める数量を示した船のことである。即ち、20フィートのコンテナーを18000個積んだ船が通航する場合に凡そ9100万円の料金がかかるということである。現在コンテナー船の主流は4000TEUから12000TEUである。船のトン数によって料金は変化するが、一般に通航料が非常に高いことから航海日数において急がない場合はアフリカ大陸を回って航行するコンテナー船も現れているという。

パナマ運河の場合はスエズ運河よりも料金は3-4割高いとされている。そのせいで、航海日数は長くても割安のスエズ運河を通って貨物を輸送するという手段もあるほどである。

全長190㎞のスエズ運河の一部既存水路37㎞に平行して35㎞の新水路を開設したことで双通航ができるようになった。それによって通航できる船の数が倍増でき、運河を通過する時間も18時間から11時間に短縮された。

この拡張工事は当初5年計画であったのをシシ大統領の要請で24時間の突貫工事が行われ、12カ月で完成させたという代物である。完成を急がせた理由は「アラブの春」以降、経済は低迷し、テロなどで観光収入も減って政府の歳入が減少していたという事情があったからである。何しろ、世界の貿易取引量の7%がスエズ運河を利用しており、拡張工事によってそれを10%まで上げることをエジプト政府は期待している。

ところが、拡張工事から2年が経過しているというのに、<今年8月の売上は4億4700万ドル(492億円)で、昨年同月は4億6210万ドル(508億円)、一昨年同月は5億1000万ドル(561億円)>と比べ売上が下がっているという現象が起きているのである。

この売上の減少についてスエズ運河庁の広報官マルワ・マエールは<国際取引の後退と原油価格の下落>を理由に挙げている。

運河庁の計画では<10年先に売上を2.5倍にする>予定になっていた。<2014年の売上は53億ドル(5830億円)だったのを2023年には132億ドル(1兆4500億円)の売上にする>というのが当初の計画である。

<今年6月の場合、通航した船の数は1384船で積載量は8463万4000トン。昨年同月は1350船で積載量8003万1000トン、一昨年は1485船で8284万3000トン>という実績が同じく運河庁から発表されている。

昨年から大幅な割引を実施していることもあって売上は寧ろ後退している。問題は、カーネギー研究所のエジプト出身の経済専門家アムル・アドゥリが指摘しているように、<「どのようにして売上を2.5倍に伸ばすのかという詳細が一切明らかにされていないことである」>と批判している。

更に同氏が挙げているのは、<拡張工事を実施する前に、採算制についての研究調査が行われなかったことと、85億ドル(9350億円)という巨額の投資>である。その内の72億ドル(7920億円)は<5年間利回り12%の国債を売って集めた資金を充てている>ということで、その償還の負担は政府にとって将来的に重くなる。<現状では中期的に見て悪い投資である>と同氏は指摘している。

拡張工事の成果が見えない現状を前にして、政府は運河の周辺を経済発展地帯にする考えを持っているという。<港の建設や造船所そして倉庫などを誘致した工場地帯をつくり>、またそれに合わせて<住宅建設なども検討している>という。

現状の世界貿易取引量であればスエズ運河とパナマ運河の二つの運河だけで十分だと言われている。ニカラグア運河や北極航路も将来的には可能性としてあるであろうが、採算性という点において疑問視されている。特に、ニカラグア運河については果たして完成するのかという強い疑問が存在している。