日本人の選択が朝鮮半島有事を決める(特別寄稿)

渡瀬 裕哉

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東アジア・北朝鮮に対する米国側の脅威認識が高まりつつある

今年4月頃から俄かに注目を集めるようになった北朝鮮問題は、筆者が前々から指摘しているようにから騒ぎ状態が続いており、実際の軍事衝突には遠く及ばない状況となっています。

現状までの米軍と北朝鮮の軍事衝突の可能性が極めて低いことは明らかでした。北朝鮮に対する制裁オプションが十分に残されていること、北朝鮮有事の主力となる米軍空母が世界中に分散配置されたままになっていること、政治任用が進まず東アジア向けの外交官が手薄であること、政権幹部は主に中東を専門とする軍人であること、などからトランプ大統領と北朝鮮が激しい言葉で罵り合ったとしても、所詮それまでのことだろうと容易に推測できます。

日本政府は「トランプの東アジア政策」を買いたたけ!(特別寄稿)(8月31日)

ただし、4月~9月の半年間の間に、米国民、特に共和党員の対東アジア意識・対北朝鮮意識が急速に高まってきていることも事実であり、年末にかけては情勢が大きく変化していくことが予測されます。共和党保守派の人々が従来までは関心が高くなかった東アジア情勢について筆者のワシントンD.Cでの面談時に、北朝鮮問題、そして中国の脅威について口にするようになったことは少なからず驚かされます。

それでも北朝鮮に対する楽観論が大勢を占める米国の雰囲気

しかし、筆者が懸念していることはこの共和党関係者による「東アジア情勢に対する急速な関心の高まり」にあるわけです。米国は約20年以上も北朝鮮に対話方針を取ってきた、つまり事実上の放置をしてきた結果として、北朝鮮のミサイル技術・核技術の発展という脅威に直面することになりました。現在のトランプ大統領による北朝鮮に対する反応は周到な準備に基づくというよりも「対話」ではなく「圧力」という正反対の対応をとることによって問題が解決するという安易な発想によるものではないかと思います。

筆者ら日本人は北朝鮮という問題国家を目の前にして、彼らの侮蔑的言動や挑発行為などについては既に慣れっこになっており、またその体制の異常さについても米国よりも深い認識を持っています。ミサイルや核についても今に始まったことではなく何年もその脅威にさらされ続けてきました。北朝鮮は軍事的な圧力をかけたところで容易に降伏するような国ではなく、経済制裁を続けても国民生活を犠牲にして成り立つような国です。

筆者の懸念は米国の北朝鮮に対する認識が「にわか」であって、米軍の軍事オプションを北朝鮮が安易に妥協すると思っている節があることに起因しています。

筆者がワシントンD.Cで面会した共和党の人々は、一律に金正恩は理性的な指導者であり、合理的な交渉ができる相手であるとみなしていました。しかし、北朝鮮がそのような西欧流の合理的志向が通用する国であるかどうかは甚だ疑問です。そのため、筆者はトランプ大統領と軍事オプションに対して弱腰反応を示さない北朝鮮の間で事態のエスカレーションが進展していくリスクを想定しています。

その結果として、米軍は今後朝鮮半島沖で複数の空母を動員した軍事演習などを実施していく可能性がありますが、それでも北朝鮮が抵抗を止めなかった場合、米国はどのような外交的解決方法を想定しているのでしょうか。新しいことに興味を持ったときに良くありがちな楽観論が支配的な空気を占めている気がしてなりません。

日本人の選択が朝鮮半島有事に影響を与える

ここに興味深いデータがあります。9月半ばのCNN世論調査によると、米国民の58%が北朝鮮に対する軍事行動を容認した、というセンセーショナルなニュースが流れていました。しかし、同じ調査の中に米軍単独での軍事行動でも支持する人は29%、周辺国の協力を含める場合に軍事行動を支持する人は63%という結果を含まれています。米国世論では北朝鮮への攻撃やむなしの機運が部分的に高まりつつあるものの、それは実際には日本・韓国などの同盟国の行動次第という状況となっています。つまり、実は米国の世論に鑑み、米軍の北朝鮮への軍事行動の決定の一端を担っているのは我々東アジアの同盟国である日本人であり、実は同決定に対する受け身の存在ではないということです。

トランプ大統領の国連演説が行われた日、米国メディア上で安倍・トランプは2ショットで盛んに取り上げられていました。そして、北朝鮮に対する圧力を主張する安倍首相の方針も高らかに掲げられた状況となっています。これは安倍政権によるトランプ政権及び米国民向けのPRとしては功を奏したものと想定されますが、日本人は自らが米朝開戦に繋がるエスカレーションに影響を与えていることも認識すべきだと思います。筆者は北朝鮮の独裁体制などを容認する者ではありませんが、安易な軍事的緊張の高まりを望む者でもありません。

日本は米国に過度に依存せずに独自の防衛力を整備し、その上で東アジアの問題について外交力を持って解決していく力を持つべきです。国民が何も知らないままに、米国による軍事展開に賛意を送るような行為は慎むべきであり、このタイミングで東アジアに軍事紛争が発生するリスクを取るべきか、ということも踏まえて、冷静な状況判断を加えていくべきでしょう。

トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体
渡瀬裕哉
祥伝社
2017-04-01

 

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