今回は少々インパクトのある話題を提供したい。「食品ロス」(食べられるはずの食品が廃棄されること)の問題がクローズアップされている。卵であれば、賞味期限は夏場は、産卵日から3週間だが、実は冬場なら57日間は生で食べることができる。また、卵に限らず、多くの食品の賞味期限は 実際より2割以上短く設定されている。
消費者は期限を1日でも過ぎた食品は廃棄し、小売店も期限前に商品を撤去する。その結果、日本は、「食品ロス」大国に変貌を遂げた。今回、話を聞くのは、食品ロス問題専門家の、井出/留美(以下、井出氏)。Yahoo! News個人のオーサーとしても活動をしている。近著に、『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』がある。
メディア出演実績も多く、『視点・論点』(NHK)、『ニュースウォッチ9』(NHK)、『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京)、『ガイアの夜明け』(テレビ東京)などがある。日本を代表する「食品ロス問題」の専門家として知られている。
「安全係数」は単なる目安にすぎない
――賞味期限は難しい問題である。しかし、ほとんどの賞味期限は2割以上短く設定されていることを知れば、対応は変わってくるのではないか。
「本当に気をつけなければいけないのは『消費期限』です。日持ちしないお弁当やサンドウィッチ、お総菜などに表示される『食べても安全な』期限です。これは、その日までに消費する必要があります。これに対し、賞味期限は、『おいしく食べられる期限』です。賞味期限は、短めに設定されていることがほとんどです。」(井出氏)
「どのくらい短めかは企業や商品によって違います。食べ物を作っている企業が賞味期限を設定するやり方は、様々なのです。実際の日持ちする日数に、『安全係数』という数字を掛けて、賞味期限を設定しますが、企業によって異なります。」(同)
――参考までに、国(消費者庁)は加工食品のガイドラインやQ&Aで数字を公表している。しかし、安全係数を使うことは義務ではない。
「なぜ、義務ではないかという点についてお話します。『食品』といっても、生鮮食品、缶詰、乾麺、備蓄食品などがあります。食品の特性がありますから一括して決めることができません。また、原材料、製造過程、流通·販売過程、品質の変化はバラついていますので、すべてを考慮して安全係数を決めることは不可能です。」(井出氏)
「安全係数は、あくまでも目安でしかありません。したがってこれを掛けて算出した賞味期限も『目安』に過ぎない、ということになるでしょう。また、『安全係数』を使わずに経験則や勘で賞味期限を設定している企業もあります。」(同)
「食品ロス」はなぜ発生するのか
――消費を促進するためには、どんどん売ることが求められる。さっさと賞味期限を切らせてしまったほうがいいという業界側の理由が透けてみえる。
「鮮度保持剤を製造する企業主催の勉強会では、生菓子などを扱う菓子店では、本来日持ちする日数の半分に設定するケースが多いと聞きました。製造日から期限までの2倍、日持ちすることになります。やはり、対象商品の特性を十分に考慮したうえで、科学的・合理的根拠に基づいたうえで設定がされるべきと考えます。」(井出氏)
「商品を作って出荷するまでは工場の中で温度が一定に保たれていますが、出荷されてしまえば、流通やその後の保存状況下でどのように管理されるか把握することはできません。トラックに載せているときの温度や、物流センター、SM、CVSの倉庫に置かれるときの、実態についての管理はできません。」(同)
――さらに、買われていった地域や買った人の属性はバラバラであること。それらすべての条件や起こりうるリスクを考慮すると、広く多くの人に製品を提供する企業としては、短めに設定せぎるを得ないという実情も浮かび上がる。
「日本は賞味期限を短めに設定する傾向にあります。湿度が高いのも要因ですが、安全性に対する要求レベルが高いことも事実です。賞味期限は、あくまでアバウトな目安です。そんな目安に過ぎない数字を、知人の食品メーカー勤務の人ですら、『賞味期限を過ぎたら速攻で捨てる』と言っていました。」(井出氏)
結果的に不利益を被る消費者
小売店の多くは、目安に過ぎない賞味期限よりさらにもっと手前の日に商品を撤去することになる。賞味期間全体の、3分の2程度に「販売期限」を設定し、そこに達すると棚から撤去するのである。これが、「食品ロス」の実態である。まだ食べられるにもかかわらず、このルールによって大量のムダが発生している。
結果的に、消費者は知らずに、廃棄のコストを負担させられることになる。そして、「食品ロス」の構造にメスを入れたのが本書になる。過去の文献整理からはじまり、関係各所への取材などから浮かび上がる衝撃の事実。おすすめしたい一冊である。
参考書籍
『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)
尾藤克之
コラムニスト
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