思い付きっぽい「ユリノミクス」について真面目に検討してみる --- 佐藤 鴻全

2017年10月15日 06:00

<この記事のポイント>

  • 小池氏の希望の党が発表した経済政策「ユリノミクス」の肝は、報道されている通り、10%への消費税増税凍結、大企業の内部留保課税、ベーシックインカム導入のようだ。
  • 内部留保金課税は、企業活動への懲罰的メッセージとなってしまう。ベーシックインカムは、機能しない。それに代え、労働を伴う分配である「給付付き税額控除」を導入すべきである。
  • 穴の開いたバケツに水を注いでも、意味がない。社会保障は、払う人を増やし、受け取る人を「受け取る必要が無い人化」しなければ早晩破綻する。

小池新党の誕生

10日に公示され22日に投開票される解散総選挙で、小池百合子氏が立ち上げた希望の党が失速気味だ。民進党を吸収する際に「排除の理論」を使ったからだとも言われるが、かつての上司小沢一郎氏が作った細川政権の時のガラス細工の野党糾合と、左右が混在する旧民主党の失敗を自身も有権者も見ているので、元より左端まで入れた新党を作るつもりは無かったと思われる。

あわよく風が吹けば出馬しての天下取りも念頭にはあったが、恐らく小池氏がメインで考えていたのは、「緑のたぬき」のマーケティングとして左翼の右側にもターゲットを広げた中道保守政党を作り、今回は選挙結果次第で、同じ小沢氏でも、渡辺ミッチー擁立に動いた時と、自自(後の自自公)連立の時を参考にした2パターンの展開だろう。もっとも、今のところ歩留まりが悪く、そこまでも自民党を追い込み難い趨勢ではあるが。

さて政策面だが、希望の党の対北朝鮮・安保・憲法改正については基本的に自民党と大差はなく、「原発ゼロ」は中身と工程が詰められておらず(小池氏の「核武装論者」としての整合性も問われる)、実質的に自民党との間で議論となるのは、経済政策と社会保障となると思われる。

小池氏の「希望の党」が発表した経済政策「ユリノミクス」の肝(つまり自民党との顕著な違い)は、報道されている通り、10%への消費税増税凍結、大企業の内部留保課税、ベーシックインカム導入のようだ。(政策パンフレットP13 政策集参照

消費税と内部留保課税

先ずこれを見ると、消費の冷え込みに配慮しての消費税増税凍結は自然であるが、その財源の埋め合わせに300兆円の大企業の内部留保への課税を持ってきている所が気に掛かる。また政策集では、これにより「配当機会を通じた株式市場の活性化、雇用創出、設備投資増加をもたらす」と謳っている。

確かに、理屈ではその効果はある程度有りそうだが、法人税の実質増税となり、企業活動への懲罰的メッセージともなるので、海外からの投資を遠ざけ、経済を萎縮させる負の心理的効果が懸念される。韓国で導入実績があるというが、仮に日本で導入する場合は、少なくともその結果を相当年に渡って見る必要があるだろう。

なお、例えば雇用創出、賃金上昇のためであれば、「法人税の常設雇用控除」等のような直接的なメッセージを伴う政策が好ましいと思われる。

また、消費税増税凍結の財源5.6兆円の埋め合わせについては、行政改革でこそ叩き出すべきだろう。少々乱暴になるが、国家公務員の人件費約6兆円、地方公務員を含めると約30兆円、この内、自衛隊員や警察官等々、半分には手を付けないとしても残りの20%をカットすれば3兆円が出て来る。残りの2.6兆円は、その他の無駄の削減、行政改革で捻出し、それでも足りなければ一時的に赤字国債で賄う事でどうだろうか。あるいは、無駄の削減を多く出せた場合は人件費カットを緩和するとすれば、役人は必死で削減リストを出してくると思われる。

ベーシックインカムと社会の形

ベーシックインカムは、就労や資産の有無にかかわらず、すべての個人に対して生活に最低限必要な所得を無条件に給付するという社会政策の構想だ。これにより、生活保護、失業保険、年金等を廃止して簡素化し、一律給付へ置き換える事となる。なお仮に月額給付額を8万円とすると、必要財源は総額約100兆円となる。

先ず、例えば現在10数万円である生活保護を8万円にした場合、受給者や左派勢力からは「文化的最低限の生活を維持できない!」と反乱が起こり、妥協の末に現生活保護受給者には割増金を支給するという元の木阿弥のような事にもなりそうである。

また一方で、生活レベルを落として月額8万円で暮らして行こうとすれば、可能と言えば可能だろう。その結果、一切労働をせず、仙人みたいな暮らしをする人々が多数出て来る。仙人ならまだよいが、子曰く「小人閑居して不善を為す」の通り、やる事が無くなって、犯罪に走る者も出て来るだろう。そしてそもそも、生産をしない者が溢れれば、生産をしている者の負担が膨大と成って行く。

やはり、少し考えて見ただけでもベーシックインカムは、機能しない。もし格差解消に注目するのならば、これに代えて、諸外国で導入実績がある、基本的に就労を条件に足りない分を少しだけ公的に補ってあげる「給付付き税額控除」を導入した方が合理的である。身体的事情等特別な場合を除けば、「労働を伴わない分配」ではなく、「労働を伴う分配」の方がどう見ても健全であろう。

小池氏は、ひょっとしたら「給付付き税額控除」の方がよいと思っていたのだが、横文字でインパクトのあるベーシックインカムという言葉の方を使いたかっただけかも知れない。

なお筆者は社会保障改革としては、例えば「在職老齢年金減額分の個人積立制度」のようなものも、試験的にでも導入してみるべきだと考える。

また、タバコ税を欧米並みに増税する一方、ニコチンとタールを抜いた電子タバコの購入に健康保険を適用してはどうだろうか。チョイ悪感と手持無沙汰と口寂しさでタバコを吸っている人も多いだろうから(筆者がそうだった)、もしかすると喫煙人口と医療費が半減するかもしれない。こういった細々したものだけでなく、社会保障改革には単なるソロバン勘定ではない様々な政策的余地があると思われる。

穴の開いたバケツに水を注いでも、意味がない。社会保障は、払う人を増やし、受け取る人を「受け取る必要が無い人化」しなければ早晩破綻する。

選挙戦とそれに続く国会ではこの事を念頭に、小池氏に限らず皮相な議論で時間を浪費せずに、持続可能な社会の構築へ向け本質的論戦をして頂きたい。

佐藤 鴻全 政治外交ウォッチャー、ブロガー、会社員
ブログ:佐藤総研

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