IS倒壊後、シリアのバルカン半島化が米国とイスラエルの狙い

HISPANTVより引用

ロシアのラブロフ外相は「米国は、テロリストをシリアから排除すること以外に目的はないと誓っている。しかし、それが実現した時に、それが本当だったのか、或いは我々が知らないだけで米国は他に目的をもっていたのか分かるようになる」とロシアのNTVテレビでのインタビューで答えたという。

ラブロフ外相が米国の動きから推察しているのは、米国が主導してシリアでバルカニゼーションを再現させようとしていることである。嘗て、バルカン半島に存在していたユーゴスラビアが複数の小国に分割した。同じようなことを米国はシリアで行うと企んでいるというのである。

2011年2月から始まったシリア紛争でこれまで28万人が死亡、700万人が国内避難、450万人が難民として外国に逃れている。

イラン革命防衛隊の最高指揮官ソレイマニ将軍はイスラム国(IS)はあと2か月で壊滅すると発言している。

ところが米国もイスラエルも内心それを望んでいないというのが本音である。イスラエルが国家の安全を保つにはシリアで今後も紛争が続く必要があるのである。そうすれば、イランとヒズボラはシリア紛争に勢力を注がねばならず、全力を傾けてイスラエルへの攻撃に移ることができなくなるという訳である。

それをネタニャフ首相は昨年1月のダボス経済会議の席で次のように述べた。「(イスラエルにとって)最も理想的な選択はシリアをバルカニゼーションして分割させることである。現状から判断してそれが最も適切だと思われる」「何故なら、シリアを一つの国家として統一できることに私は疑いをもっているからだ」と指摘したのである。その疑いを仕掛ける役目を米国とイスラエルが担うことになるのは公式の場では言えない。

そこで、米国はイスラム国が壊滅した後のことを考慮して、今もクルド民族から成る反政府軍に支援をしているのである。目指すものはイラクとシリアに跨るクルド民族国家「大クルディスタン」の建国である。

その実現の為に、先ずイラクのクルド自治領が独立すること。その独立投票が9月25日に行われた。それにシリアのクルド民族が加わるということである。シリアのクルド民族と米国はこのプランに同意していることが『Inside Syria Media Center』の情報から明らかにされたという。

更に、イランのクルド民族の6政党が集まってイラン政府に対抗する組織を築くことで合意したという。その合意を具体化させたかのように3月20日、都市マリワンでイランのクルド民族組織ザグロス・イーグルがイラン革命防衛隊の二人の隊員を暗殺し、多数の負傷者が出させたという事件があった。

クルドの独立国家建設の動きはイラン、トルコ、イラクにとって重要な問題に発展することは必至である。特に、人口の2割をクルド人で占めているトルコではイラクのクルド自治領が独立するようなことになればトルコ国内でもクルド人による独立の動きが活発になることを懸念してイラクのクルド自治領にトルコ軍を介入させるということも示唆している。また、原油の購入も中断すると表明している。既に3か国ともクルド自治領に向かうフライトを中止して航空路線を遮断した。

一方、イスラエルにとって、クルド自治領の独立は望むところである。また、米国はイラクでサダム・フセイン政権が倒壊してからイラクの国家プランを立てる時からクルド自治領の独立を望んでいたという。現在、米国がそれに反対しているが、独立が時期尚早だと考えているからである。

今年に入って、6月からクルド人民防衛隊がリーダー格のアラブとの混成組織シリア民主主義部隊(FDS)に米国は武器や弾薬などを積んで1600台以上のトラックを送ったという。

また、旧ソ連で生産された武器をペンタゴンは5億ドル(550億円)相当の入札で手に入れて、それをドイツのラムシュタイン空軍基地から秘密裏にシリアの反政府クルド組織に送ったことを「南ドイツ新聞」が明らかにしたことが『Voltairenet』で言及されている。

イスラム国のシリアでの領土は当初の39%から既に12%に減少している。資金源の多くも失っている。しかし、イスラム国が壊滅してシリアに平和が訪れることはまだほど遠いようである。今度は、クルド民族による反政府武装組織がシリア国家の統一を妨げる役目を担うことになるようである。