希望の党の「遺伝子データ分析による予防医療」は可能か?

2017年10月19日 06:00

衆議院選挙が公示され、街頭の掲示板には候補者のポスターが並び、メディアは連日情勢を伝えています。自民公明が300議席超の勢いで、一方の希望の党は失速が伝えられています。

医療に関しても、それぞれ特色のある政策をかかげていますが、今回は、各党ともにAIを活用したビッグデータへの関心は高く、自民党、公明党、希望の党がそれぞれ言及しています。データヘルスはまだまだ課題の多い分野で、蓄積されたデータが活用しきれていないといわれています。また、データの蓄積の方法にも課題があり、マイナンバーと連動した医療番号制度が2018年から段階導入され、重複診療を減らすなどの現実的役割とともに、ビッグデータとしても活用される仕組みになっています。

自民、公明は各党ともに、検診などにおけるデータヘルスを推進する方針ですが、希望の党は政策集に以下のような一文を記しています。

遺伝子データ分析の飛躍的改善により、将来かかる可能性の高い病気を個人ごとに集中予防し、医療費を削減する。

つまるところ、遺伝子検査を予防医療に使用するという意味ですが、一読したとき、かなりラディカルな方針が記されていることに驚きました。将来的には遺伝子診療がこういう方向に進むことは想像ができますが、果たして近い将来に具体的な政策として可能なのかについて論じてみたいと思います。

1. 「遺伝子検査」は予防医療に使えるのか

現在、遺伝子検査で体質がわかる、と謳うサービスが増えており、口腔内粘膜などを採取して解析していますが、医師が介在する検査ではないので、癌や特定の病気の原因とされる遺伝子の検査は除外されていることが多いです。

遺伝子検査を行うことで、肥満の確率や高血圧、生活習慣病などのリスクが算出されるとされていますが、遺伝子検査はあくまで、特定の遺伝子配列とある疾患の関連を見るもので、全ての関連がわかっているわけではなく、発症のオッズ比を出しますが、オッズ比の解釈が一般の人にできるのか、過剰診療にならないようにこれらの検査のデータをどのように扱っていくのかは定まっていません。オッズ比が低くても、その疾患を発症する確率がゼロというわけではありません。公費である程度を負担するとなると(すぐさまそういうことができるとも思えませんが)、財源確保も非常に大きな問題となってきます。政策集でうたわれている「医療費の削減」が果たして可能なのか、作成者には論拠を示してほしいと思います。

2. 遺伝カウンセラーが足りない!

遺伝子の情報というのは、非常にセンシティヴなもので、究極の個人情報であり、解釈の難しいものです。現在でも、医療現場では、若年発症の癌などで遺伝性が疑われた場合、本人や家族に説明を行い同意を得た上で遺伝子検査を行うことがありますが、これはなかなか、簡単なことではありません。本人が遺伝子検査で陽性であったとき、本人にきょうだいや子供がいる場合には、その人々の検査を行うかどうか、今後のフォローをどうしていくかまでが問題となってきます。ここ数年で、大病院や一部のクリニックで遺伝子カウンセラーの設置はすすんでいますが、検査の対象者が広がった場合に対応できるようなカウンセラーの人数もいませんし、専門の医師も少ないのが現状です。

ところで、アンジェリーナ・ジョリーで有名になった遺伝性乳癌卵巣癌症候群では、BRCA1とBRCA2の遺伝子変異が知られています。遺伝性乳癌では、これ以外にも胃癌小葉癌症候群などがあり、まだ知られていない変異もあるとされています。亡くなった小林麻央さんは「遺伝性乳癌ではない」とのことでしたが、既知の変異ではなかったようだということがわかるのみで、「遺伝性ではない」という断言はできません。

また、日本では、遺伝性乳癌と診断されても、予防的乳房切除は自費になります。遺伝性乳癌は、タイプにもよりますが、女性のみではなく男性も、前立腺癌などで問題になってきます。このように、かなり影響する範囲が広くなってきますので、そのための診療体制の整備が現在少しずつ進められているところです。

遺伝子診療が、医療の未来を根底から変える可能性があるのは間違いのない事実ですが、遺伝子検査や遺伝子診療では、プライバシーの問題や家族のフォローアップの問題、費用面を含めて課題が山積しています。希望の党は「遺伝子データ分析による医療費削減」をさらっと盛り込んでいますが、実現のためにはもう少し、診療の現状や財政などについて具体的な根拠を示してほしいところではあります。

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松村 むつみ
放射線診断医、メディカルライター、アゴラ出版道場二期生

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