選挙公約は成長戦略も教育無償も的外れ

ソフト企業に絞った教育、産業政策を

コンピューター産業に詳しい知人が、日本の経済力、産業力の将来性を嘆いています。選挙も終盤に差し掛かり、各党は選挙公約の宣伝合戦です。「どの党の成長戦略も教育政策も的が外れている。中国はすさまじい勢いでソフト産業を強化しており、米中と日本の格差は広がる一方。このままではインドにも追い越されてしまうだろう」と警告します。

「今やソフト産業が産業、経済の将来性を握っている。産業政策も教育政策もそこに焦点を絞らなければならない」と、知人は警告してます。ソフト産業を具体的にいえば、米国のアップル、グーグル、マイクロソフト、フェースブックであり、サービス業を加えるとアマゾンなどです。

世界のトップ10の企業のうち、ほとんどがソフト産業、それを駆使した金融関係が上位(株式時価総額)を占めています。かつて経済、産業力の根幹をなした製造業、資源産業のシェアは落ち続けています。上位10社の時価総額4兆6000億㌦のうちソフト産業は2兆7000億㌦を占めます。10年前は総額2兆6000億㌦に対し、ソフト産業はその10分の1程度でした。ソフト産業が経済成長をけん引するのです。

日本はインドにも負ける

20年前に日本の総生産額(GDP)の10分の1だった中国は、今や日本の2倍に拡大しました。20分の1だったインドが日本の2分の1まで接近しています。「ソフト産業が成長して、GDPを押し上げている。インドは英語圏で、ソフト教育や開発に有利なので、数年で日本を追い越す」。

なぜ日本だけが過去20年も、経済成長をしていないのか。景気政策、金融財政政策に原因があるのではないでしょう。ソフトを中心として、試行錯誤の末、成長していく新規企業が次世代の産業を背負っていく展開がなかったからでしょう。

「日本が誇る自動車のトヨタも、欧米のGMやVWも危ない。自動車産業のトップは数年でグーグルにとって代わられるかもしれない」と、そのくらい急激な構造変化が起きるのだそうです。「ソフトの塊である自動運転の電気自動車が主力になる時がくる。エンジン部品が2万点もある自動車は不利になる。エンジン工場は将来、なくなる。燃費も劇的に改善する」。

中国のソフト産業は目覚ましい成長

「中国はソフト産業の育成を国家プロジェクトに据え、ソフト教育に力を入れている。7つのシステム工学大学院を国家政策の中核にしている」。NHKのドクメンタリーでも先日、ゲームソフト、ドローン、フィンテック(次世代金融技術)、無人コンビニ、シェア経済(共有型経済)などの分野で、多様な企業群、製品群がすさまじい勢いで登場している様子を報告していました。こういう中から未来のグーグルが誕生していくのでしょう。

ソフト産業の育成とそのための教育政策を組み合わせていくことです。教育無償化の是非、無償化の範囲などで各党は論争しています。そのようなことより、次世代をになう経済社会を作るために、どのような教育政策が必要なのかを論じるべきです。

産業育成では、自民党の公約では、AI(人工知能)、IOT(モノのインターネット接続)、起業促進などスローガンだけは羅列されています。ソフト企業育成と起業の基本的な大切さをもっと訴えるべきです。立憲民主党の「再生可能エネルギー、省エネ技術への投資」は必要であっても、日本経済が低迷から脱出するための処方箋になりえません。

ソフトの専門家から注目されているのは、会津大学(福島県)の試みです。コンピューター教育と英語教育を柱にした単科大学で、教員の半数は外国人、英語による論文作成、発表が義務付けられています。大学の評価ランキングでは、800校中23位まで上がっているそうです。選挙対策のために考え出した不勉強な学生、定員割れの私学支援のような教育無償化はやめるべきです。次世代の産業育成につながるように、明確な目標を立てて、教育予算を配分していくことです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年10月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。