ハリウッド級の芸能人権利擁護を:佐藤大和弁護士に聞く(前編)

2017年10月27日 06:00

SMAPのジャニーズ退所騒動や、能年玲奈さんの芸名問題(現在は「のん」で活動)など、日本の芸能界は、芸能人と芸能事務所の間で移籍などを巡ってのトラブルが後を絶たない。その要因のひとつとして、アメリカのように、芸能人の権利擁護のシステムが確立されていないことが指摘されている。そうしたトラブル解消に向け、芸能界での法的ルール整備を提言して活動中の佐藤大和弁護士に、元政策秘書で政治家のコンサルティングを行う鈴鹿久美子氏(株式会社InStyle代表取締役社長)がインタビュー。いまの芸能界を取り巻く問題や、今後のあるべき方向性について尋ねた。(企画制作・株式会社InStyle、編集協力・アゴラ編集部)

鈴鹿:今日はどうぞ宜しくお願いします!以前お目にかかった時、佐藤さんは「僕の地道な活動が、50年かかってでも結実したらいいと思っている」と仰っていましたよね。それが、あの直後から公正取引委員会が動き出しました。

佐藤:僕も正直驚いています。僕は、東日本大震災で祖母と叔母をなくしているのですが、とても落ち込んでいたときにAKBに慰められ勇気をもらった経験があります。それまではアイドルには全く興味がなかったのですが、AKBが被災地のために発してくれるメッセージや笑顔を見るだけで「もっと頑張ろう!」と思えたんです。その時にアイドルやタレントとして活躍する方々の社会的な意義を知ったというのが正しいでしょうか。

だから鈴鹿さんに初めてお会いしたときに、「タレントがもっと伸びやかに活躍できる土台を作ることが必要なんです」と、力説していましたよね(笑)その「土台の土台」が今後の50年どころではなくて、数カ月で動き出していることには、本当に自分でも驚いています。運命でしょうか(笑)。

鈴鹿:正しいことしている時には追い風が吹くものだと聞いたことがあります。逆にどこか違うことをしている時には、壁が立ちはだかる。これまでの経験は今のこの時のためだったのかと思いますよ。

佐藤 大和(さとう やまと):1983年生まれ。宮城県石巻市出身。レイ法律事務所代表弁護士。三重大学卒業後、司法試験に合格し、2011年に弁護士登録(東京弁護士会所属)。企業法務のほか、芸能・エンタメトラブル(多くの顧問先芸能事務所、タレント・アイドルを抱える)を担当。2017年5月、「芸能人の権利を守る 日本エンターテイナーライツ協会」(ERA)を発足。著書に『ずるい暗記術 偏差値30から司法試験に一発合格できた勉強法』(ダイヤモンド社)など。

権利団体設立の背景:名ばかりの悪徳事務所の存在

佐藤:僕は、今年の5月に芸能人の権利を守る団体「日本エンターテイナーライツ協会(ERA)」を立ち上げたのですが、そう上手くはいかないかなと思っていました。それがこんな風に一つ一つのことが動き出して、鈴鹿さんとの出会いも含めてすべてのタイミングが一致してきた感があるんです。

鈴鹿:そうですね。初めて会ったタイミングから、やはり天命でしょうか。佐藤さんとはとんとん拍子に会いましょうになって、お互い猛烈に忙しいのに、スケジュールであいて居るとことがピタッと合って、気が合って。

佐藤:天命の仕事という意味では、僕が弁護士になって芸能界の仕事に関わるのも、そうなのではないかと思っています。東日本大震災で祖母と叔母を亡くして、もの凄く落ち込んでいるときにAKBが被災地に向けて発してくれた応援メッセージを見て、不思議な元気が出たんです。それまでアイドルには全く興味がなかったのに、涙が溢れて癒やされてゆく体験をしました。その時、初めてアイドルとかタレントと呼ばれる人々がメディアを通して活動することの重要性を知ったのです。

元気を取り戻した僕は、一念発起して猛勉強をし、弁護士になることができました。あの時、あのテレビを見ていなかったら、今の僕はいません。タレント、アイドルの方々の果たす役割がとてつもなく大きいことを知りました。芸能界の仕事をすることは、恩返しというか、僕の天命なのかもしれないと思っています。

鈴鹿:佐藤さんが弁護士として、芸能界に必要だと思っているものは、何かありますか?

佐藤:良く聞いてくれました!(笑)僕は、「芸能事務所」とは名ばかりの悪徳芸能事務所に騙される人がいなくなるように、そしてタレントと芸能事務所双方に公平でwin-winの関係を築くことのできる「契約書」がこの日本に広がることが必要だと考えています。

一言で「芸能事務所」と言っても真っ当に活動しているところから詐欺集団の様に暗躍しているところまで色々あります。

鈴鹿:詐欺集団とはどんなところですか?

佐藤:それは正に「悪徳芸能事務所」で、誘い込んだアイドル希望の若い女の子に芸能活動ではなく、理由をつけて、レッスン費用だと言ったり、高価な美顔器等を買わせて本人からお金を搾取したり、アダルトビデオに出演させる目的を隠して募集したり、所属しているモデルやアイドルの着替えを盗撮してビデオを販売するなど、犯罪ともいえることをしている「芸能事務所」とは名ばかりの集団です。僕はこのような集団を「地下アイドル」ではなく「地下3階」と呼んでいます。ここまでくると「芸能事務所」と呼んではいけないと思います。

鈴鹿:恐ろしいですね。夢を叶えるために必死に頑張る人が未成年であればなおさら、犯罪行為そのものですね。

アイドルにならないかと声をかけられたときに、信頼して良いかどうかの目安となるものは無いのでしょうか。

鈴鹿 久美子(すずか くみこ):株式会社InStyle代表取締役。政策秘書として6人の国会議員に仕え、様々なタイプの選挙実務を経験。2012年の総選挙を前に政策秘書を辞職し、秘書と議員のマッチングを図る日本で唯一の議員秘書専門人材紹介会社「議員秘書ドットコム」を創立。議員秘書の人材紹介、議員秘書養成、国会議員や立候補者のコンサルティングに従事する。

職業選択の自由も侵害:芸能界の契約の実態

佐藤:タレント個人と芸能事務所の双方に自立性と発展性を加味した「芸能界で働くときに締結する契約書」のひな形があって、それが世の中の常識になっていれば、この様な犯罪集団はなくなってゆくと考えています。先ずここが最重要だと考えています。

鈴鹿:法律で網をかけるということですね。

佐藤:はい。そして、芸能活動をするタレント個人と芸能事務所との契約そのものも、新しい形式が必要なのではないかとも考えています。

鈴鹿:問題が起こる前にこのようなトラブルを未然に防止する方法が、「芸能事務所と交わす契約書」だということですね。この契約書を「優先的地位の乱用」の問題が発生しない書かれ方で結ぶことが常識になればトラブルを回避することができる。双方にとって発展的でwin-winな契約書。

佐藤:事務所にも、タレントにも、双方の将来にも資する契約を結ぶことができれば、日本のエンターテイメントは世界に向けても発信できるより強力なものと成長します。それに必要なことが制度の創設、法律を作ることも必要なのではないかと考えています。

例えば、所属している芸能事務所を辞めて他に移ろうとしたときに、辞めにくくするとか、辞めた後に仕事を「干す」、困らせるとかいうことでトラブルになるというか、タレントさんが仕事を失うことがあるのです。いわゆる「移籍トラブル」です。

鈴鹿:その芸能事務所が所属していたタレントの仕事を「干す」ことが、独占禁止法の適用で議論されている「優先的地位の乱用」ですね。今年7月に公正取引委員会が「人材と競争政策に関する検討会」を開催して、芸能人やITの特殊な技術を持つ「技能人材」と呼ばれる逸材が、不当に安い賃金で契約を強いられていたり、事務所を移籍する際に露出ができなくなるようにメディアに圧力をかけたりする可能性のある行為を、人材の特殊性の観点から課題を論理的に整理するという目的で設置されました。

佐藤:「移籍トラブル」は、タレントを売れるように育てるまでにレッスンや営業など相当の費用がかかりますが、それを回収する間もなく、売れ始めた途端に他の事務所に移籍されては育てただけ損をすることになる。その事務所を辞めた後に、「芸能活動の活動禁止規定」を設けているところがあり、僕は、これは問題だと思っています。タレントに対して「移籍しないで欲しい」と伝え、交渉するのは全く問題ありません。

しかし、「うちの芸能事務所を辞めたら活動をさせないぞ」というのは、仕事を奪うのと同じこと。タレントは、芸能界で働くことが仕事であり、それを「この職域で働いてはダメ」としたら、仕事、つまり「タレントの方々の職業そのもの」を禁止していることになります。

これは、憲法22条で保障している「職業選択の自由」を制限していると考え得ることができます。ですからこのような契約条項自体は、憲法違反の可能性が高いと考えられます。

鈴鹿:なるほど。事務所の切実な願いも理解できるけれども、芸能界で働く人に、今所属している事務所を辞めることイコール職を失うこと、となること自体が憲法違反になるのではないか、ということですね。

佐藤:タレントが大物・有名であっても、そもそもメディアで取り上げないことが多いです。特に事務所移籍問題は取り上げられたとしても、ゴシップネタ程度の取り扱いで終わってしまうのが通常です。

移籍問題で浮上する独禁法の「優先的地位の乱用」とは

鈴鹿:芸能事務所の移籍問題がでると必ず指摘される独占禁止法の「優先的地位の濫用」というのは、取引相手より優位な立場にある側が、その地位を利用して相手に不当に不利益を与えることですが、これが芸能事務所だとどのように当てはめられるのでしょう。

佐藤:はい。例えば、自分の事務所のタレントが独立したいと言ったときに、独立させるけれども、テレビ局や制作会社に「あのタレントを使うな!」と不当な圧力をかけたりすることもその一つで、自分の会社が儲かるように掛け合うこと自体は通常の行為ですが、その範囲を逸脱していると考えられるものが問題なのです。

鈴鹿: そんなことが可能なのでしょうか。

佐藤:「あのタレントを使ったらうちに所属する他の売れっ子タレントは出さないぞ」という様なことです。不当な圧力を利用して、芸能事務所を移籍させないようにしていることが、芸能界における「優越的地位の濫用」の典型例です。僕が代表をしているレイ法律事務所にも、大物・有名なタレントさんがご相談に来られますが、トラブルが起きてから確認すると契約書にタレントに不利な条項が沢山あります。この条項自体が無効かどうか判断するための判断基準の一つが「優越的地位の濫用」ですので、水際で食い止めるには、やはりそもそもの契約が大切なのです。

鈴鹿:問題が起こる前にトラブルを未然に防止する方法が、「芸能事務所と交わす契約書」だということですね。この契約書を「優先的地位の乱用」の問題が発生しない書かれ方で結ぶことが通常となれば良いわけですね。先程もお話に出た双方にとって発展的なwin-winな契約書。

佐藤:事務所にも、タレントにも、双方の将来に資する契約を結ぶことができれば、日本のエンターテイメントは世界に向けても発信できるより強力なものと成長します。それに必要なことが制度の創設、法律を作ることも必要なのではないかと考えています。

鈴鹿:公取委が適切に動くことも大切ですが、行政を動かすためには、このことにピンポイントでフォーカスした法律がないと難しいと思います。

佐藤:そうなんです。やはり僕は新しい法律が必要だと思っています。

後編はこちら)。

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