イラクの勢力拡大阻止でクルド住民投票を利用しようとしたサウジ

2017年11月09日 06:00

elpais.comより引用

サウジアラビアは中東においてイランの勢力拡大を恐れて機会あるごとにイランの活動を阻止する為の策を弄している。しかし、いつも逆にイランの伸展を齎すという結果になっている。

最近の例では、イランと共通の海底ガス田をもつカタールがサウジのイラン対策を批判したというのを理由に、サウジはカタールを封鎖するという行動に出た。それには米トランプ大統領の後押しがあると判断した。

結果は、サウジが期待していたカタールの服従はなく、逆にカタールとイランの関係が今まで以上に深まってしまった。そして、カタールを支援に向かったトルコともサウジは関係が悪化。そして、カタールを介してイランとトルコの関係が強まるという結果にもなった。

イラクのクルド自治区の住民投票についても、サウジはそれを支持した。クルド自治区が独立した国家になれば、イラン、イラク、トルコ、シリアに住むクルド人の独立を煽るようになり、<イランとトルコの飛躍の翼を切ることが出来る>とサウジは考えて、クルド自治区に特使まで派遣してバルザニ議長を支援した。それによって、イラクを分離させて、イランとトルコによるイラク領土の支配を妨げようとプランニングした。

サウジのジェッダにある中東戦略センターの所長で退役将官アンワル・エシュキ(Anwar Eshki)は外交委員会の席で<「平和的手段でクルド人による建国はイラン、トルコ、イラクの野望を挫くことになり、各国の3分の1の領土を削り取ることになるであろう」>と述べたのである。更に同氏は<「サウジは(自治区住民の)意思をそぐような干渉はしない。クルド人は独立国家を形成する権利があると思う」>と語ったのである。

また、サウジ議会のアブドゥラ・アル・ラビア博士(Abdullah Al-Rabi’ah)は「Arabia Okaz Daily紙」に、<「イラクのクルド人は優れた経済力、文化、政治、軍事を備えている。イランとトルコがそれを穿つことは不可能である」>と言及した。そして、同博士がバルザニ議長と会談した際にも<「独立するに十分な理由をもっており、防衛もそれに見合うものだ」>と指摘した。

バルザニの息子で情報保安担当相を務めているマスルール・バルザニ(Masrour Barzani)は<住民投票の実施ひと月前にアブダビを秘密裏に訪問してモハメッド・ビン・ザイード皇太子と会談>している。

バグダッドでは「The New Arab紙」がクルドの首府アルビルのある官僚と会談して<アラブ首長国連邦の政治研究センターの所長イブティサン・アル・クビ(Ibtisam Al-Kutbi)と相互理解の覚書が交わされた>ことを確認したのである。

表立てては、イスラエルだけがその住民投票を支持したことになっているが、クルド自治政府はその実施を前に、サウジとアラブ首長国連邦から支援のお墨付きを貰っていたのであった。

ところが、独立票が圧勝した住民投票の後、イラク軍がキルクークに侵入すると、いつも死をも恐れない勇敢さを持っていることで定評のあるクルド自治区のクルド愛国党(PUK)の防衛隊ペシュメルガが侵攻して来たイラク軍の前に交戦を交えることなく後退したのである。その事実を知らされたサウジのサルマン国王は手の平を返すようにクルド自治区への支援を放棄して、<イラクのアバディー首相と電話会談をしてその翌週にリヤドを訪問するように誘った>のであった。

サウジの外交は常に右往左往。米国に媚びたかと思うと、イランを牽制する意味でロシアに接近という外交を展開している。

何故、ペシュメルガがイラク軍を前に後退したのかという理由をペシュメルガの退役75歳のサイッド・バアディン・モハメッド大尉が指摘している。彼によると、「バグダッド政府と交戦しないようにという合意が交わされていたのだ」というのだ。戦闘の前線にいたフリアド・アウマド(Friad A.Ahmad)の説明によると、<PUKのペシュメルガの部隊が撤退した時に、「我々も撤退の命令が下った」>と語った。そして、アウマドはクルド自治区にはクルド民主党(PDK)とクルド愛国党(PUK)が対立しており、双方がそれぞれ防衛隊ペシュメルガをもって対立しているというのである。

PDKはバルザニ議長の政党で、PUKは最近亡くなったタラバニ議長が率いて、現在はその息子ラフェル・タラバニがリードしている。イラク軍の前に交戦せず撤退したのはタラバニのクルド愛国党の部隊であった。

イラク軍の侵攻によってクルド自治区は2014年に占領していた領土にまで後退を余儀なくさせられたという。それよりさらに後退させられるとなると、クルマラ油田も手放さねばならなくなり、クルド政府にとってそれは許されないところである。

ロンドンにある「Al-Hayat紙」がイラク政府とクルド自治区の交渉が始まっていることを明らかにしたという。その交渉には<バルザニ議長の参加はイラク政府の方が拒否している>という。それは同時にクルドの政党も同様の考えでいるようで、バルザニ議長の政権放棄を望んでいるのである。

10月25日、バルザニ議長は<11月に退任することを明らかにした>という。

サウジの容易に変化する外交はクルド人による国家の建設の夢を摘んでしまった。これによって、イランのイラクにおける勢力は更に拡大することになる。

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