足立康史氏の誤解している電波オークション

池田 信夫

足立康史議員の「朝日新聞、死ね」というツイートが話題になっている。アゴラでも本人が弁明しているが、これは一般人が保育所について「日本死ね」という話とは違う。国権の最高機関たる国会は、立法によって朝日新聞を殺すことができるからだ。放送法には今もそういう規定がある。放送法第4条では「編集準則」を定め、放送に次の要件を求めている。

  1. 公安及び善良な風俗を害しないこと。
  2. 政治的に公平であること。
  3. 報道は事実をまげないですること。
  4. 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

総務省は「放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性がある」(高市総務相の答弁)。もちろん実際に発動されたことはないが、電波法76条が発動されそうになったことがある。

NHKの島桂次が副会長だった時代に、衛星放送の中身を大幅に変えて地上波と違う番組にしたが、これに郵政省がストップをかけた。島は怒り、週刊朝日のインタビューで「放送衛星のコスト600億円のうちNHKは360億円も負担したが、新たに放送できたのは南大東島ぐらいだ。当時の経営陣が、郵政省のやつらにはめられて宇宙開発に利用された」と語った。

その直後に、全国のサテライト局(山の中の小さな局)で、無線局免許の更新が延期された。その理由は「アンテナの前に木の枝が繁っている」などの技術的な問題だったが、それが島の暴言への報復であることは、職員は誰でも気づいた。島が郵政省に出向いて謝罪し、免許は無事更新された。

このように現在の裁量的な電波割り当てが、総務省の権力の源泉だ。彼らは無線局の免許を停止する生殺与奪の権限を握って放送局を統制し、ひいては新聞社を統制している。それがOECDで最後まで実施できないオークションの問題をマスコミが報じない原因だ。ところが足立氏はこれを逆に誤解し、オークションでテレビ局を脅そうとしている。

用途を制限しない「帯域免許」でオークションをやると、新規参入するのはテレビ局ではなく通信業者である。放送法を廃止すると、彼が「死ね」と書いている朝日新聞の系列局は政府の支配を受けないで自由に放送でき、「偏向報道」を圧殺しようという彼のねらいとは逆になる。オークションは電波に不可侵の財産権を設定し、足立氏のような無知な政治家の介入から表現の自由を守るのだ。