ドイツの大連立交渉の行方

長谷川 良

シュタインマイヤー独大統領は先月30日夜(現地時間)、ベルリンの大統領府(ベルビュー宮殿)にメルケル首相(キリスト教民主同盟党首=CDU)、ゼーホーファー党首(キリスト教社会同盟=CSU)、それに野党第1党「社会民主党」(SPD)のシュルツ党首の3党党首を招き、大連立政権交渉について話し合った。大統領府の情報によると、大統領、3党党首間の対話は2時間半に及んだ。会談内容は非公開という。CDU/CSUとSPD3党党首が会合したのは9月24日の連邦議会選後初めて。

CDU/CSUとの大連立交渉に臨むシュルツSPD党首(SPD公式サイトから)

3党党首会談はシュタインマイヤー大統領の提案に基づくものだ。SPD出身の同大統領は総選挙のやり直しには強く反対し、大連立政権の再発足を願っているといわれる。新選挙を実施したとしても、政党の支持率に大きな変動はなく、結局は同じ連立交渉を始めなければならなくなる可能性が高いと予想されるからだ。

メルケル首相にとって早期安定政権の発足が急務だが、CDU/CSUと自由民主党(FDP)、それに「同盟90/緑の党」の3党によるジャマイカ連立交渉は先月19日、FDPが交渉テーブルから離脱を表明したため挫折。残された新政権のシナリオはSPDとの大連立政権の再現だけとなった。

問題はSPDの立場だ。シュルツ党首は連邦議会選の敗北直後、「国民は大連立政権をもはや支持していない」と指摘し、大連立政権の再現を拒否し、「SPDは野党の道を歩む」と表明した経緯がある。ちなみに、CDU/CSUとSPD両党は連邦議会選で約14%近くの得票率を失った。

独ハンブルクのオラーフ・ショルツ市長(SPD)は「CDU/CSUが大連立を望むならば交渉に応じるのは厭わない。ただし、わが党は焦る必要はない。党として要求すべき内容は要求する姿勢で臨むだけだ」と述べ、連立政権の発足に焦るメルケル首相のペースに乗る考えがないことを示唆している。

一方、与党CDUの経済評議会からは、「SPDが交渉で多くの要求を提示してくることが予想される。社会福祉関連で非現実的な要求を提示した場合、それは絶対に受理出来ない。わが党は大連立交渉でSPDに多くの譲歩をするより、少数政権の道を真剣に考えてもいいのではないか」という声が聞かれる。SPDとの大連立政権を再現すれば、国民のCDUへの支持率は30%を割ってしまうのではないかという不安も払拭できないからだ。ただし、少数政権の発足については、メルケル首相は最初から懐疑的で、「欧州の盟主ドイツには安定政権が必要だ」と主張してきた。

ここにきて新たな争点が浮かび上がってきた。シュミット食糧・農業相(CSU)がブリュッセルの会合で農薬の除草剤、ラウンドアップの主成分であるグリホサート(独Glyphosat)の認可をSPD側との話し合いもせずに勝手に承認したことに対し、SPDから激しい批判が出ている。同農業相はその直後、ヘンドリックス環境相(SPD)と会合し、SPD側に理解を求め、「グリホサートの使用に厳格に対処していく」と述べている有様だ。

時間は永遠にあるわけではない。ジャマイカ連立交渉が挫折した今日、再選挙の実施を回避するためには大連立以外に他の選択肢はなくなった。メルケル首相もシュルツ党首ももはや後退できない状況だ。特に、SPDは今月7日、党大会を控えている。党大会の行方はシュルツ党首個人の命運だけではなく、連立交渉の行方にも大きな影響を与えることは必至だ。

独週刊誌シュピーゲル(最新号=12月2日号)は「大連立はドイツにとって何を意味するか」をテーマに特集を組んでいる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年12月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。