議員年金が復活しそうな気配である。11月14日、口火を切ったのは自民党の竹下亘総務会長の一言だ。
「元議員が議員年金が無くなり生活保護を受けたり、ホームレスになったりする方もいる」
納税者も有権者もナメられたものである。自民党の一党支配が続いてすっかり緊張感もなくなり、今ならどんなワガママも通ると思ったのか。55年体制下で我田引水の立法ばかり行い、政治家パラダイスの国にした強欲の虫がまた疼き出したらしい。同志たる公明党もこの案に乗り気で、具体的な検討に入った。
国会議員の実収入は年間5000万円以上
そんなに議員が貧困だと言うのなら、国会議員に支払われる収入を見ていこう。以前、「参議院不要論をコストから考える」という記事でも記した内容だが、国会議員の年収にあたる歳費は期末手当の約635万円を含め年間で約2200万円。因みに各国の議員報酬と比較すると、米国が約2000万円、英国が約980万円、ドイツ約940万円、カナダ約1400万円であり、先進国中でもトップクラスである。
が、これは『歳費』という世を忍ぶ仮の姿に過ぎない。国会議員はむしろ副収入の方が大きい。領収書など一切不要で国会議員の第二の給料と言われる文書通信交通滞在費が月100万円で年間1200万円。領収書不要の立法事務費が月65万円で年間780万円(立法事務費は衆参両議院の各会派に対して支給されるが、議員一人でも会派結成を届け出て、議院運営委員会の承認を得れば支給される)。地方議員の場合は、立法事務費や文書通信交通滞在費に相当するものは、政務活動費とよばれる。
国会議員の場合、特権はまだまだある。政党交付金は、国民一人当たり250円(合計320億円)が国の予算から政党に分配されており、国会議員707人(衆議院465人、参議院242人)で割ると、1人あたり年間約4500万円となる。各党の活動原資として広報費や人件費などに使われるが、多くの政党で各議員に少なくとも1000万円、多ければ半額程度が政党支部などを通じて各議員に配られる。解党の際には政党は余剰金を国に返納しなければいけないが、全額を経費計上しようと所属議員間で骨肉の争いが水面下で行われ、「昨日の同志は今日の敵同士」となる。
また、JR全線で新幹線・特急・グリーン車等の料金無料または月4往復分の航空券の無料。これを経費とした場合、月4往復の航空券を1往復5万円で計算すると20万円と換算できるので、年間240万円に相当する。ここまでで、少なく見積もっても5000万円以上が議員の財布に入る仕組みとなっている。更に、多くの議員が政治資金パーティーを開催して、支持者から一人あたり2万円程度の参加費を徴収し、1回あたり数百万―数千万円の政治資金を稼ぎ出す。
いくらサボっても報酬に減額なし
無論、議員は個人事業主のようなものだから、自身の政治活動はこれらの中から捻出しなければならない。ただ、日常の政策立案や雑務は、国が手厚くケアしている。国費で負担する公設秘書として、公設第一秘書、公設第二秘書および政策担当秘書の3人を置くことが認められる。国会図書館と衆院・参院調査室には電話かオンラインで調査や資料を請求でき、法案作成には各院法制局に依頼して法律案及び修正案の立案、法律問題の調査をしてくれる。
これらの人件費や調査費はどんなに利用しても、もちろんタダである。選挙費用だって、公職選挙法で国または地方公共団体が候補者の選挙運動の費用の一部を負担する選挙公営制度が設けられている。議員に言わせると、「政治活動はいくらあっても足りない」と言い訳をしそうだが、公設秘書や選挙公営、パーティーで得た政治資金を効率よく活用できれば、年間5000万円以上の収入は手つかずで懐に入れてしまうことも可能だ。
「議員は個人事業主のようなもの」と書いたが、民間の個人事業主の場合、一カ月も仕事を休めば存亡の危機に立たされる。しかし、国会・地方議員の場合、どんなに休もうが報酬は変わらない。極端な話、任期中に一度も議会に出なくとも満額支給される。以前、北九州市議が病気療養で2年4カ月にわたって本会議や常任委員会を欠席している間に3300万円余の議員報酬全額が支払われていたことが分かり問題になったが、国会議員の歳費も地方議員の議員報酬も、憲法第49条と地方自治法203条で保障されており、活動の有無で減額される規定はない。
慌てて「地方議員の救済」を言い訳に
因みに、衆議院では登院記録はあっても本会議出欠について記録を取っていないため、国民が議員活動を正確にチェックすることができない。国会の出欠すら明らかにしないで、議員年金は復活するという竹下議員のバランス感覚の欠如には驚き呆れるばかりである。因みに、この御仁は、つい先日の11月23日にも「(国賓を招く宮中晩餐会について)パートナーが同性だった場合、私は(出席に)反対だ」と語り、LGBTに対する明確な差別発言まで行っている。給料にしろ性別にしろ、差別が大好きな御人柄のようである。
国政政党である日本維新の会からも「とんでもない話だ。元国会議員が国民年金で生活できないなら国民年金制度の改革が必要だ」と批判が出た。こうした批判が出て分が悪いと思ったのか、自民党は地方議員の厚生年金加入に向けた法案を来年の通常国会で提出しようと動き出した。たしかに、限界集落の村などは満足な議員報酬が確保できないため、議員のなり手がいない自治体もある。だが、そういった自治体から「年金復活を」という要請があったわけではない。はじめに「国会議員の年金復活」ありきで始まった要望をすり替えて、小規模自治体に責任を擦り付けて自分たちの余剰資金を殖やそうという魂胆がミエミエである。
あまりにも優遇されていた議員年金
2006年3月で廃止された議員年金だが、それ以前に受給資格を得た元議員には現在も高額な年金が支払われている。国民年金が一人あたり年間79万2100円であるのに対し、議員年金は年間412万円。掛けた保険料に対する返還率は国民年金が178%であるのに対し、議員年金は488%である。サラリーマンの平均年収にあたるお金が、引退した元議員に支払われ続けており、自民党はこれを大々的に復活しようというのである。将来の年金財源が危機的と言われる中で、骨の髄まで国富を吸い尽くそうというのだから、開いた口が塞がらない。
2006年当時、国民年金は受給資格を得るための最低納付期間が25年以上だったのに対し、国会議員年金は10年、地方議員年金は12年だった。在職期間が1年増えるごとに議員年金は月額8万2400円も増加するなど、制度上の差別は明白だった。
2017年8月1日から、国民年金の最低納付期間は10年以上に改正された。「これで不公平感が薄らいだ」とみて、また総選挙での自民圧勝に安心して議員年金復活に動き出した可能性が高い。だが、最低納付期間がかつての議員年金と同様になっただけであり、返還率の国民年金との3倍近い差はほとんど変わらない。言うまでもないことだが、議員年金などなくても、国民年金は20歳から60歳までの全国民が対象であり、国会議員だって65歳から老齢基礎年金の受給者となる。
個人事業主よりも明らかに優遇されているのに、さらに赤字財政に目もくれず議員年金を復活しようという考え方に、誰が納得できるだろうか。因みに、議員年金は「国会議員互助年金」と言われるが、財源の約70%が公費からの支出であり、現在は100%の公費負担である。
政治屋は肥え太る算段ばかり
歳費を巡る様々な仕掛けを見れば、国会議員という生き物がいかに国民の目を欺こうと悪知恵を働かせているかが見えてくる。期末手当635万円を端折って歳費を1500万円台と過小評価する。文書通信交通滞在費、立法事務費、政党交付金、議員特権という形で副収入を分散化して、実体としての年収5000万円超をカモフラージュする。
こうしてウソを糊塗することに血道を上げる政治屋の方々には、もう国民の代表たる地位を与えないよう有権者が怒りを示さねば、彼らはいつまでも肥え太る算段ばかり行い、国を繁栄させることには大した興味を示さないだろう。一人ひとりが声を上げないと、我々の血税が貪り尽くされてしまう。与党だの野党だの、右だの左だの騒ぐ前に、有権者に向き合い国の未来に向き合う有志が政治をしなければ、遅かれ早かれ国は衰亡の道をたどる。
この記事を拡散し、国民の怒りの声に変えてほしいと切に願う。