バノン氏が意欲。ブライトバートニュース日本版誕生か⁈

新田 哲史

先頃来日したバノン氏(Gage Skidmore/flickr:編集部)

トランプ大統領の側近、スティーブン・バノン氏が先週末の訪日イベントで、自ら会長を務める“右派系”ニュースサイト「ブライトバートニュース」の日本版を作る意欲を示したのだという。

「バノン来日公演」4万8600円払って行ってみたら、ズッコケた(現代ビジネス)

ブライトバートニュースといえば、米国内のゴリゴリの保守派論調で、リベラル派から「差別主義的」などと嫌われまくっていることでおなじみだ。アメリカ以外では、ロンドン版とエルサレム版がすでにローンチしているが、筆者は、ここ数か月、“東京版”のローンチが近い将来あるのではないかという予感がしていて、渡瀬裕哉さんらの専門家にその可能性を尋ねたりしていた。

日本版ローンチの予感がしていた背景

というのも、バノン氏は来日イベントでも「(中国は)われわれを経済的に侵略している」などと語っていたように、かなりの対中警戒論者。アジア最大の同盟国である日本に世論対策上の橋頭堡を築くことでトランプ政権を側面支援するであろうと考えたからだ。会場で取材した編集者の知人によれば、アジア全体を視野に入れているかのような発言もしていたのだとか。

日本のネットメディア市場は、先に日本版をローンチしたハフィントンポスト、バズフィードにみられるように、論調におけるリベラル勢が伸しており、保守系の大手メディアが“不在”でマーケットはガラ空きになっている。アゴラは伝統的な保守論壇とは一線を画すものの、リアリズムの立場からその“空白区”で独占的にプレゼンスを発揮したいと思ってはきた。ただ、やはりハフポストやバズとは資本力の格差で埋めがたい部分もあり、フォックスニュースか、ブライトバートニュースなどのビッグネームが上陸したら、良い形で間接的にシナジーを発揮できないかとも感じていたところだった。

もちろん、バノン氏の「日本版をつくりたい」という発言は、イベント時の勢いにのってのものかもしれないし、リップサービスの可能性も小さくないと思うが、言論の多様化の意味でも、もし本当に上陸するなら大歓迎だ。

「オルト・ライト」路線に固執すると苦戦するのでは

ただし、日本である程度のマーケットスケールで成功するにはいくつか条件は必要のようにも感じる。以前から噂に聞いていたが、このバノン氏の来日イベントを主催したのは、日本国内の保守運動でも特殊な立ち位置にいる幸福実現党の関係者のようだ。

バズフィードが日本版創刊時に朝日新聞から古田大輔氏をヘッドハンティングしたように、既存のマスコミやネットメディアから編集長人材をスカウト、あるいは公募することも考えられなくはないが、核となる人材は手近なところで固めたいだろうから、幸福実現党界隈の人物がそのまま編集長などの要職に就く可能性が順当に考えられる。

そうなると、幸福実現党がさんざん選挙にトライしても一度も国政に議席を得たことがないことからも明らかなように、ブライトバートニュースの看板を借りたところで、その先鋭的な主張が「オルト・ライト」路線として前面に滲み出かねない。そうなると、結局は日本社会で“キワモノ視”されて影響力がなく失速してしまうだろう。経営側のポジションについても、実は見かけによらず投資会社出身のバノン氏のようにバリバリのビジネス人材を引っ張ってこられるかどうかもポイントだ。

とはいえ、ネットも政治も詳しい編集長人材は意外に希少

ちなみに、政治家のブログを多数掲載し、ここ半年ほどは執筆陣入りを希望する政治家も増えているアゴラを預かってきた身として思うことがある。ブライトバートニュースクラスの政治的プレゼンスがある媒体の編集長として適性があり、なおかつネットメディアの運営を熟知している人材は、そもそも意外に少ないのではないか。

この際、告白してしまうと、何年も前のことながら、ある政党がオウンドメディアを立ち上げるにあたって編集長人材を探していて、知り合いを通じて私に打診してきたことがあった。その時、私はフリーランスとして複数の仕事を同時展開中だったので業務委託契約を希望するも、先方は正規雇用に強いこだわりをしていたので、面談に行く前にお断りしたものだったが、その後も後任を探すのに苦慮していたように見受ける。

バノンさんからお声がかかったらどうしよう。。。というのは冗談ですが(そもそもオレ英語しゃべれないし…苦笑)投資系や外資系だとオウンドメディアの編集長を探すのに金の糸目をつけないところもある。「ネットもわかる」新聞・出版経験者を中心に候補を探していたりするのだが、取材記者の経験のある人はごまんといても、メディアを運営した経験も掛け合わせると、実は希少なようだ。私のところに打診してきたヘッドハンターさんのなかには、役員クラスの年俸を提示してくる人がいて驚いたこともあった。高い報酬を出してでも本気で人材を探せば、政治ジャーナリスト経験者などで案外適任者が手を挙げるかもしれない。

バノン氏の日本版への意欲が、伊達や酔狂でないのなら、2018年のネットメディア界はなかなか面白くなる。個人的には、フォックスニュースあたりの伝統的主流の保守メディアが読売新聞と組んで新しいメディアをやったほうがメインストリームの保守ネットメディアを構築できるのではないか?と思うが、プレイヤーの端くれとして、今後の展開に注目したい。

告知

ちなみに、このメディア話が出たタイミングでというのも奇遇ながら、「月刊Hanada」の花田紀凱編集長から、恐縮にも対談相手にご指名をいただきまして、花田さんが司会を務めるインターネットテレビ「言論テレビ」が22日今夜22時から放送だそうです。ブライトバート日本版の話もちらっとだけ言及していますが、朝日新聞問題の振り返りをベースに、ネットメディアの動向についてもお話させてもらいました。伝説の大編集長に胸を借りる思いで臨んだ番組、さてどんな感じでしょうか。