中国人学生の考える 「望ましいAI」②

2018年01月02日 06:00

テンセントのAIロボット(South China Morning Postより引用:編集部)

「人工知能(AI)に何を望むか?」「それはなぜ?」「その先にどんな社会が訪れるのか?」

『現代メディア・テーマ研究』の期末課題は、以上三つの問いに対する答えを1000字以上でまとめる内容だ。目立ったテーマの一つが、両親や家族に対する思いを託したものだった。

一人っ子政策のもとで育った彼ら、彼女らは、両親のほか両家の祖父母も含め六人の手で育てられた。その分、将来、結婚をすれば計12人の老人の面倒をみなければならなくなる。勉学や就職のため親元を離れることも多い。多くは中高から寄宿舎生活が始まり、帰宅は一週間に1回だけだ。大学に入ると冬と夏の休み、年に2回、仕事で遠方に勤務すれば、場合によっては年に1回の帰省がやっとだ。それも1週間ほどしか休暇は取れない。病気や事故の際、そばにいられないことに気を病む若者も少なくない。

そこにAIが手を貸してくれたら、どんなにいいだろうと考える。親を思う子どもの自然な情である。中国では、特に農村部では、孝行を尊ぶ道徳観念がなお根強い。老人ホームに送り、他人に介護を任せることへの後ろめたさがある。AIならば抵抗も少ない、というわけだ。中国でも急速に高齢化が進んでおり、老人の介護は大きな社会問題でもある。子どもが絶えずそばにいられるのが理想だが、現実的には難しい。ロボットであっても、近くにいて、関心を持ってくれる存在は力強い。

「家にいる老人の代わりに、花に水をやったり、モノを運んだり、食事を作ったり、一緒に散歩に行けるようなAIがあればいい。もし、病気で緊急対応が必要な際には、救急車を呼び、家族に連絡を取り、病院にも素早く症状を伝えることができる。AIは日常生活の中で、家庭に欠かせない”助っ人”として、老人が安全で、豊かな生活を遅れるように助けてくれる。そうすれば我々の一人っ子世代も、安心していることができる」

「老人ホームもあるが、年寄りはやはり住み慣れた家で過ごしたいものだ。見ず知らずの人ばかりの老人ホームでは、きっと周囲の環境に溶け込むことができない。この点、家にAIロボットがあれば、老人はなじみやすいだろうし、交流もできて、困難は少なくて済む。ロボットに慣れれば、子どもたちがいなくても孤独にならない。AIが随時、子どもたちと連絡を取ってくれる。これは将来の高齢化社会にとって福音だ」

こんなことを率直に書いてくる。

夏休みの経験を打ち明けた女子学生もいた。夏休みの二か月間、企業でのインターンシップをして、それから帰宅した。インターン中は毎日、母親と楽しく動画でチャットをしていたので、両親とも元気でいると思っていた。だが、母親の笑顔は繕ったものだった。彼女が知らないうちに、実は二か月前、父親が入院して手術をし、親戚がみな集まっていたことを、帰宅後に知らされた。母親は「大した手術じゃなかったから」と言い訳をしたが、娘に余計な心配をさせないための親心だった。

「あの時、私は自分が親不孝者だと感じた。父親が入院したことさえ知らなかったなんて。もしAIロボットがいて、逐一、私に知らせてくれたらどんなにかよかったことだろう。私も父親の病状を正確に知ることができる」

両親の夫婦げんかをロボットに仲裁してほしい、と家族の秘密を書いた文章もあった。小さいころから両親は、お金や人間関係のことで口げんかばかりして、そのため、自分は今なお、結婚に対する不安を抱くほどになっている。あんなに不快で苦痛な毎日が続くのならば、なぜ結婚して一緒に暮らしているのか、意義を見いだせない。もし、ロボットがいて、けんかの一部始終を記録し、冷静になった時に見せれば、反省を迫ることができる。間に入っておしゃべりをすれば、二人の気持ちが和らぐこともあり得る。人が仲裁すると、どうしても偏りが生じてしまうので、ロボットであれば中立で公正な立場が保証できる。

第三者には大げさに見えるかもしれないが、本人は真剣で、深刻な問題なのだ。人間にはできないこと。人間には不得手なこと。それは時代とともに変化する。AIに求める内容も、今後、さらに多様化していくことが予想される。機械的な作業だけでなく、より人間的な役割が期待されることは間違いない。「これからどうなるか?」を考えるだけでなく、「自分がどうしたいのか?」に向き合うことが、ますます重要になるに違いない。

物事には必ず両面がある。AIも諸刃の剣であある。学生たちは、メリットと同時に、デメリットにも目を配っている。

弱い立場にある老人が過度にAIに頼ってしまうと、依頼心ばかりが強まり、そもそも弱りかけている独立した思考や判断能力が一気にン失われるのではないか。子どもの方も、AIに頼って安心してしまうと、本来あるべき両親への関心が薄まる心配もある。また、私生活の関与、干渉が深まれば、プライバシーの問題も考えなければならない。

学生たちはみな、自分を振り返り、両親や祖父母を気遣いながら、あるべきAI社会の将来像を探索する。その気持ちはどこまでも純粋だ。だが、諸刃の剣であるAIをどう活用すべきなのか。100%の正解があるわけではない。加速度的に技術が進歩する中で、人間の思考、意識、感情も、追いついていくために息切れしそうだ。いやむしろ、追いかけるという発想に間違いがあるのかも知れない。だからこそ、自分と向き合うことの尊さがある。

(続)


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2018年1月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。

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加藤 隆則
汕頭大学新聞学院教授、元読売新聞中国総局長

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