独国民は再「大連立」より選挙を望む

長谷川 良

大連立政権を目指すメルケル首相(CDU公式サイトから)

明日(7日)、メルケル独首相の与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)と野党第1党「社会民主党」(SPD)の間で大連立政権の発足を目指し予備交渉が始まる。予定では12日まで行われる。SPDは交渉内容を今月21日に招集する臨時党大会で協議し、本格的な連立交渉を進めるか否かを決める。

ドイツで昨年9月24日、連邦議会選挙(下院)が実施されてから既に100日以上が過ぎたが、新政権はまだ発足していない。このままいくと新政権空白の戦後最長期間となる。それだけに、メルケル首相は早急に SPDとの連立交渉を終え、第4次メルケル政権をスタートしたいところだ。

メルケル首相は昨年12月31日、13回目の新年のテレビ演説の中で、「世界はドイツをいつまでも待っていない」と述べ、“欧州の盟主”ドイツの早期新政権発足が国際社会への義務だと強調している。欧州の刷新を推進するフランスのマクロン大統領もドイツの新政権を首を長くして待っている1人だ。欧州連合(EU)のブリュッセルも同様だろう。ドイツ抜きでEUの主要政策は実施できないからだ。

CDUの友党CSUのゼーホーファー党首は、「遅くとも4月初めには新政権は発足しなければならない」と述べ、相手のSPDに交渉の進展を促している。

SPDは昨年12月の特別党大会で大連立交渉を始めることを了承したが、党内は決して一枚岩ではない。シュルツ党首をはじめとする一部の党幹部は下野して党の刷新に全力を投入したいと考えている一方、ガブリエル外相(前党首)らは大連立政権の継続を支持している、といった具合だ。

換言すれば、メルケル連立政権に参加するのは止む得ないと考える派と、メルケル政権に入ればジュニア政党のSPDは益々国民の支持を失っていくという懸念派に分かれているわけだ。

メルケル首相のCDU/CSUは昨年9月の総選挙で第1党の地位こそ維持したが、前回2013年の得票率を8.6%減少させた。歴代2番目の低得票だった。一方、連立パートナーのSPDは前回比で得票率では5.2%減に留まったが、20.5%の得票率は党歴代最悪の結果だった。換言すれば、歴代2番目に悪い投票結果だったCDU/CSUと党歴代最悪の得票という記録を作ったSPDがここにきて再度、大連立政権の発足を目指して交渉を始めるというわけだ。両党から「これから政権を発足させるぞ」といった覇気が感じられないのは当然かもしれない。独週刊誌シュピーゲルは「敗者の連立政権」という見出しを付けているほどだ。

総選挙後、CDU/CSUと自由民主党(FDP)、そして「同盟90/緑の党」3党の連立交渉が行われたが、4週間に及んだ交渉テーブルからFDPが離脱を宣言したため、3党の“ジャマイカ政権”交渉は暗礁に乗り上げてしまった。その結果、ドイツでは①CDU/CSUとSPDの大連立政権を再現するか、②メルケル与党の少数政権、そして③新たな選挙の実施―という3通りの選択肢しかなくなった。

メルケル与党とSPDの間では難民問題で依然、大きな隔たりがある。国境監視の強化、難民受け入れ数制限などを打ち出してきたCDU/CSUに対し、SPDは難民の受け入れだけではなく、難民家族の受け入れなどを主張している。ここにきて新たな争点が浮かび上がってきた。シュミット食糧・農業相(CSU)がEUの会合で農薬の除草剤、ラウンドアップの主成分であるグリホサートの認可をSPD側との話し合いもせずに勝手に承認したことに対し、SPDから激しい批判が出ているのだ。

なお、ドイツ週刊誌フォークスの要請を受け実施されたINSAの世論調査によれば、、ドイツ国民の34%は新選挙の実施を希望、大連立政権の再現を願う国民は30%に過ぎず、メルケル与党の少数政権は15%に止まった。新選挙の場合、メルケル首相がCDU筆頭候補者として再出馬することに52%が反対、再出馬支持は32%に過ぎなかった。ちなみに、ARDの同様の調査でも大連立政権支持は45%に止まり、ドイツ国民の過半数(52%)は大連立政権に反対だ。ドイツ国民は大連立政権の再現より、選挙を新たに実施することを願っていることが明らかになった。

メルケル首相はドイツの政情安定、国民経済の成長の保証のように受け取られてきたが、ここにきて連立交渉の最大の障害となってきたという声すら聞かれ出した。第4次メルケル政権発足の見通しは急速に不透明となってきている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年1月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。