これは危険!力がついたつもり勉強法に注意せよ

尾藤 克之

10年前に、「東大合格生のノートはかならず美しい」という本がベストセラーになったことがある。「東大シリーズ」の走りになる。なかには、美しいノートの人もいるだろうが、日本人は「東大商法」に弱いと実感したものだ。少ない母数から結論を導いていたので強引さが否めなかったが、受験生を中心にかなり話題になった書籍だった。

今回、紹介するのは『人生逆転! 1日30分勉強法』(三笠書房)。著者は税理士の石川和男さん。石川さんに関しては、これまでもインタビュー記事をアゴラで紹介している。

自己満足に陥りやすいノート

勉強に綺麗は必要ない。もちろん人ではない。綺麗なノート、綺麗な単語帳。ノートであれば、サブノートという形でテキストをまとめる人がいる。

「特に『○○ちゃんはノートの取り方が綺麗だね』と学校時代に褒められた子供に見られる罠があります。勉強がダメでも勉強関係で唯一褒められたのが字がうまいことぐらいだった子供が陥りやすいのです。なかには、夏休みに国語の教科書を丸写しして提出するような子がいます。まさに、写経、修行、諸行、無常の世界です。」(石川さん)

「実はそれは私のことです(苦笑)。小学校低学年のときでした。先生にもっと褒められたかった私は、夏休みに国語の教科書をノート4冊に丸写しして提出したのです。一体何の意味があったのでしょう。残ったのは自己満足とペンダコ。そして、いい加減にしてほしい感がありありの、先生からの『頑張ったね!』のひと言でした。」(同)

赤いインクで書かれた「頑張ったね」の文字はいまでも脳裏に焼きついているようだ。しかし、勉強している人のなかには、このような綺麗なノートを作っている人が少なくないと、石川さんは問題点を指摘する。

「税理士試験の最中でも10人に1人はいました。湯水のように時間があればまだいいでしょう。しかし、綺麗なノートを作る暇はありません。重要箇所に線を引けばサブノートと一緒です。限られた時間のなかで綺麗なノートを作る余裕はありません。また、試験勉強は書くことが目的ではありません。覚えること、理解することが重要です。」(石川さん)

「そして受かることなのです。貴重な時間を自己満足の芸術的ノート作りに終わらせてはダメなのです。東大合格生の書いたノートは必ず美しいという趣旨の本が売れましたが鵜呑みにしないでください。『必ず美しい』は、ありえません。受かった人のなかに、たまたま綺麗なノートの人がいた。それだけです。」(同)

間違いノートを作成せよ

石川さんは、ノートをつくるなら「間違いノート」を作れ!と主張する。間違えた箇所は付箋のようなものに貼っていても剥がれてしまう。だから、間違えた箇所は1冊のノートにまとめなくてはいけないそうだ。

「間違いノートの良さは、テキスト、問題集、過去問、模擬試験などさまざまな教材のなかから、わからない箇所をその1冊にまとめているという点です。この間違いノートの作り方で注意するのは3つだけです。1つ目は、充分に余白を取ること。もともと間違えた箇所なので、あとから補足説明や気づいたことを書き加えたくなります。」(石川さん)

「2つ目は、汚い字でもいいので大きい字で書くこと。3つ目は、テキストなどの何ページ目から写したかという出典情報を記入することです。面倒がって記入しない人がいますが、必ず記入してください。振り返りができなくなりますから。」(同)

石川さんのノートは、「つぎはぎ」だらけだったようだ。使ったペン類も、赤に青にピンクに紫、その場にあったもので書いたので無地のノートがカラフルになっていた。

「とても綺麗とはいえない『つぎはぎノート』が理想です。綺麗なノートはそれだけで満足しがちです。さらに、綺麗に作っただけなので見返す情報もないのです。『つぎはぎ』が多いと愛着がわいてきます。何度も何度も見返したくなります。」(石川さん)

これは受験に限らず、仕事でも通じるテクニックになる。何度も見返して自分の足りないところ、弱いところを補ってくれるノートが大切だ。さて、筆者も「文章術の実用書」を上梓した。なんと、同じ版元で同じ担当者。1週間違いの出版となった。よろしければこちらもご参照いただきたい。『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)。

尾藤克之
コラムニスト